第23話 もう一人
「……やはり私は失敗作ですね」
黒木が目を覚ますと周辺は荒野だった。恐らく都市中枢を蹂躙した嵐によって都市外まで飛ばされたのだろう。一刻も早く空羅の元に戻らなければならないだろう。
幻影や幻葬士が放っているドローンを目についたもの全て破壊して黒木は廃棄都市の隠し扉に辿り着く。
しかし、扉の機構が壊れたのか開かない。仕方なしに持ち前の身体能力を駆使して、扉を素手で破壊する。
わざと作られた大量のダミーの壁を全て破壊して、都市中枢への道を開いていく。
ガキン
おかしい。黒木でなくても大砲程度で穴が空く壁が壊れない。今度こそは壊すと構えを取り、体を引いて衝撃を効率良く伝えるために掌底を撃ち込む瞬間
「アイ止まれ」「ボス」
黒木は声が聞こえた瞬間、障壁スレスレで止めるとすぐさま構えを解いて膝をついた。
空羅だ。
整った顔つきに似つかない子供じみた表情で黒木が現状を尋ねることもないうちにワクワクを共有するように口を開いた。「攻勢魔導術式なんて何百年ぶりだろう!アイ、喰らった感想は!?」
正直に話すと、あのノトスと言う魔導は訳が分からない。
黒木からしたら詠唱もなく敵が紡いだ『
恐らくは、風の魔導だと思う。いや、黒木からしてあれはもはや魔法だ。しかし、空羅曰くは攻勢魔導術式というもの。
聞いてる限り、それは数百年前に失われた技術、魔導そのもの。一体何処で手に入れた、或いは知り得たのだろうか。
ーー
「で、あんたは誰でここは何処なんだよ」「俺は俺でここは俺だ」「そう言うのじゃなくて」ほんとにここは何処なんだよ。真はその言葉を飲み込み先程から立つ場所をもう一度見渡す。
大地と空を塗りたくる一面の白。何もかもが擦り切れたような白。唯一、その場で色がついているのはこの白い大地と、枷と鎖で繋がっている俺を名乗る男だ。
顔立ちは確かに真とそっくりだ。瓜二つと言える。ただ一点、眼帯をしているということを除いて。また、それ以外にも俺の体には、真にはない傷跡が幾つもあった。後は真の髪の鉄色の部分がより一層濃くなっているという違いもある。
そして何よりの違いは拘束されているかだ。
「その枷はなんだよ」「シャレてるだろ」ジャララと俺が枷の鎖を自慢するように見せる。
仕方なしに見てみれば、大地に近いところほど同じように白くなっている。しかし手にかけては深い蒼のような色が夜のような黒にそれが血よりも鮮明な紅に変わった辺りで真はもう何色か確認するのをやめた。
「俺は帰られないといかない。元いた所に帰せ」いい加減、死んだと思ってみて目が覚めてみればこの方鬱陶しい自称俺の相手に疲れを感じる。一応、敵かもしれないのでナイフを向ける。
「ま、そう慌てるな。黒木は俺が飛ばした。代償はデカいが……まあどのみち踏み倒すものだ」そう言うとニヤリと笑う。まるで子供が渾身の悪戯が成功したような顔だ。
「何だよ、お前は借金してんのか?」「言い得て妙だな。間違いじゃない。何を借りたかは伝えられないけどな」そう言うと俺は真に近づいて軽くデコピンした「イッ」「もう間違えるな。やり直せない」余りに真剣な響きに真は思わず問い詰めようと口を開いた。「おい、どういう
ことだ?」
気がつくと真は荒野の洞窟にいた。幸いにも戦闘で壊れなかったスマホを使って現在地を確認する。
どうやら、都市からすぐの洞窟だ。この分なら重症でも帰れるレベルだ。ふと真は自身の傷が痛まないことに気づいてすぐさまボロボロの防具を脱いで上半身を確認する。
「傷が無い……あれ鋼糸もない。アイツに縫いとめられたってことか?」
装備を軽く点検すると、あの戦闘で幾つかの暗器がダメになっていた。他には喪失した装備を確認するがナイフ一本を除いて全くなかった。
「クソッ、いいところで帰された。次に会ったら徹底的に聞かないと……取り敢えず、月葉さん」『真くんっ無事ですかっ!!』キーンと脳に響く声を聞いて真は生きていると実感した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます