第22話 遭遇 殺戮人形
「なんとか任務完了っと」
強化兵が1人詰めていたコンピュータ室をどうにかバレないように制圧して、素早くコンピュータから情報を抜き取る機械をセットしてあとは終わるのを待つばかり。
途中、強化兵にバレながらも中枢に潜入した俺は無事、組織のコンピュータから計画とそれに類するデータの奪取と破壊工作を遂行した。
取り敢えず、まだ見ぬ第七席の人間から出発前に送られてきたコンピュータウィルスを感染させてネットワークを繋げておいた。
これであの都市とそれに連なるコンピュータは全て破壊されるだろう。
問題は、ここから先の脱出だ。
既に迎えのために神楽さんと七海さんには連絡を入れている。
しかし、それを阻むのは強化兵とここの兵士が噂する先日から来ているという視察者だ。特に気になるのは視察者の正体だ。
ここの幹部が来ると言うことはここで何かしらの重要性の高い物、或いは計画があると考えられる。
危険だが、確認するのはありだと考える。
そうと決まれば、動くだけ。
そう決意し、真はウィルスが拡散されたことを確認するとコンピュータを糸で斬り刻み、迷彩を纏って部屋の外へと飛び出した。
目標 幹部の確認
ーー
「ふうん。それで、強化兵を三つ失っているのに気付かず敵の侵入を許していると……君たち何のためにあるのかい?」
口元は笑みを浮かべているにも関わらず、絶対零度の視線の冷たさで部屋に集った5人を見下ろす。
「アイやっていいよ」「承りました」
ボスの命令に戸惑いを見せた数秒のうち、黒木によって5人は傷を知ることなく生き絶えた。
「そのまま、侵入者の確認をしといてね。帰るから」「かしこまりました」
シュッ
という風切り音と共に部屋から消えた。
「あ、しまった。生捕りを言ってない」
ーー
迷彩を着込み、バレる様子も無かったにも関わらずゾワリとした気配を感じて、真はその場から背後へと飛び退いた。
ギャリイ
先の場所に刀が勢いよくめり込み火花が散った。飛び退かなければ、間違いなく真は床と同じようになっていただろう。恐るべきは、大戦前の建材である超硬魔導コンクリートにめり込ませる身体能力。
ゴクリ、と真は生唾を飲み込んだ。
勝てない。そう悟った。
死神として真の前に姿を見せたのは、奇しくも真が前世で知る黒木愛という殺戮人形だった。
「……躱したの?」
心底理解できないという顔で黒木は刀を床から抜いた。
その僅かな瞬間にすら隙は無い。
真は糸を取り出し、風の魔導を用いて糸を漂わせる。
「糸なんて珍しいものを扱うのね」
周辺を薙ぎ払う鎌鼬が糸を切った。
それが真と黒木の闘いの火蓋を切る合図となった。
先制したのは、黒木だ。
圧倒的な速さによる立体的機動で真の腕を狙って刀を振り抜く。
後攻になった真は、それを振るう腕を蹴り上げることで逸らして防ぐ。
ミシッ
(いくらなんでも皮膚の硬さじゃねえ!?)蹴り上げた足が悲鳴を上げた。
僅かな怯みを誤魔化すよう、すぐさま魔導の鎖を複数生やして距離を取る。
「絶剣吹雪」
ゴウと吹雪の如く刀の突きによって障害たる鎖を打ち砕いて黒木は間合いを潰した。
「さようなら」
「なっ!?」
詰められた真はなすすべなく黒木の攻撃によって胸を貫かれて倒れ伏した。
「弱い人」最後に真の耳に聞こえたのは冷笑だった。
黒木は血に汚れることを気にしないとばかりに刀を勢いよく抜き、そして止めを刺そうと意識の無い真の首へと振り下ろした。
ギチチ
必殺の一撃を3つの糸が防いだ。一つは腕を縛り、一つは持ち手を縛り、一つは黒木の首を切ろうと背後から迫っていた。
やむなく、黒木は刀を防御に使わされ、また距離が空いた。
「驚いた。意識があったの?」異様な光景だった。
間違いなく内臓を傷付ける一撃だった。断じて少年の体が耐えられるようなものではない。
そう思った刹那
「ようやく、出番と思えば交代か…ケホッ」幽鬼のようにユラリと真が立ち上がった。だが、何か先程の気配と違う。
「誰?」
「あー、正真正銘俺は俺だ」
立ち上がった真はそう言うと、魔導の糸で傷を綺麗に縫い止めて止血した。
今度は黒木が飛び退く番だった。何もない黒木の足元からナイフが飛び出しのだ。トラップを仕掛けた形跡は無い。魔導か?そう疑うも対策は無い。
そして宙に浮かぶ黒木を細断せんと真が編んだ格子状の糸が壁を削り取る勢い迫る。
しかし黒木は冷静に体勢を空中で整え、斬り払おうと刀を振り抜く。
「ぐっ」
先と違い刀は呆気なく、斬り刻まれた。幸いにも、糸はそこまで長くなかったらしい黒木の髪を数本巻き込むのが限界だった。
そこからは目にもつかせぬ戦闘へと激化した。
黒木から動けば、真の糸、魔導の鎖、同じくナイフが何処からともなく飛来する。しかし重たい一撃をいなし受けてのカウンター。どうしても蓄積するダメージによって徐々に真の動きは精彩を欠く。
逆に、真から仕掛ければ、それを追い越す速さで黒木が圧倒的身体能力で襲いかかる。それをいなされ、僅かにできる隙にナイフが刺さり、かと言って距離をおけば糸と鎖が黒木の動きを阻害し、殺しに来る。出血によって黒木も同様に精彩を欠きはじめた。
そんな五分五分の闘いは時間にして数分だった。
黒木も真も無事ではない。真の縫いとめただけの傷からは血が滴り、息は上がっている。慣れない闘いを急に強いられた黒木はまた糸の切り傷とナイフの刺し傷から同じように血が滴っている。
「ここまで傷付けられたのは初めてです。まさか毒まであるとは」
「はぁはぁ、それはどうも。出血毒が全然効いていないようだが?」
「毒耐性が有るだけです。それでも止まらないとは相当強力な毒です。マスターが今まで存在した毒には耐性を用意したと仰っていましたが……ここで殺しておきましょう」
「お断りしよう。とっておきだ『攻勢魔導零式起動』《ノトス》」
都市中枢を砕く規格外の嵐が吹き荒れた。
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