一章 

第9話 第一章 プロローグ

 「これで、お終いだ」

 刃が閃く。その刃は其処にいた、幻影ファントムを切り裂き、消滅させた。


 そこには一人の少年しか立っていなかった。そして、彼はたった今、自身に与えられた任務を無傷で果たしたところであった。


 彼に与えられた任務は単純、壁内に現れた幻影ファントムを秘密裏に殲滅。


 それを成した彼、いや鏡野 真はA級の幻葬士である。そんな真はまだ13歳という幼さ。年齢を考えると凄まじい、いや規格外の能力を持っている。


 「さて、今日は終わったし帰るか……」


 さて、彼がどうしてこんなことをしている状態になったか説明をしよう。



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 始まりは俺が転生したと自覚した9年前にまで遡る。


 先生に連れられて行った適性検査によって判明した適性である風と無属性を極めると決めた俺はあれから、凄まじい速さで計画を立て、行動を始めた。


 最初の一年で、この世界の知識を図書館、先生から聞き出し、蓄積した。


 次の年になると今まで手に入れた知識を総動員し、自身を鍛える方法を考えあげ、先生、孤児院の仲間、学校の友達にバレないよう夜に起きて秘密裏に鍛える。


 そうした訓練の結果、気付かれないように発動させ続けた俺は魔導を効率的に、素早く使えるようになり、付随して隠蔽のために使う魔力の操作能力、魔力量は幻葬士の中でもトップクラスになっていた。


 そして、その過程で自身の魔力を利用して、空間を満たし闘う方法、オリジナル無属性魔導、《鏡面の鎖ミラージュ・チェイン》を編み出したのだった。


 この魔導の最大の特徴は鎖の魔導を通して魔導を放つという間合いを無視する反則も同然の技。


 ただこれは、本来誰にも出来ないような方法だった。本来、魔導は自身の能力に応じて周囲に出すことが出来る、しかし魔導から魔導を放つのは魔力量の問題もあって出来ないことだった。


しかし俺は逆に考えた。魔導から魔導は無理でも魔導を杖のようにして自身の魔力を魔導から周囲に満たして使う技を開発した。


それも効率的で規格外の魔力効率でだ。作った時の俺としては「よっしゃあ!超使い易い魔導作ったぞ!」という程度のもの。


 そして、それを自分の技として隠して小学6年生の卒業式を迎えた俺は開発した魔導を手土産にして適当に幻葬士の試験を先生に隠して受けた。


勿論、俺としては研究職を希望した。年齢が年齢だったからだ。


たーだ、そこで一つやらかした。


研究者としての試験ではなく、戦闘職の方を受けていたのだ。手土産に持っていった魔導を理由に俺は試験を合格してしまった。


そこからはトントン拍子での昇格だった。


 向こうからしたら俺の魔力量は申し分なく、魔導の操作能力はトップクラス。そして、オリジナル無属性魔導の使い手。歳が若く、日常で起こる問題の対処をすぐに駆けつけ行える。年齢ゆえ伸びしろは充分。それらが重なり合った結果、1年で異名持ちのA級の幻葬士『鏡面の鎖ミラージュ』と呼ばれるまでになるのであった。


 そして、今


 彼は孤児院の近くで発生する幻影ファントム、テロといったトラブルの対応を請け負う存在になっていた。そうしていくつもの功績を積み上げている。


 因みに、先生に叱られないように、バレないようにと思っていた幻葬士の初任務に監督役として先生がやって来てしまい、真がその日死ぬ気で正体を隠す羽目になるのであったのは、また別のお話。

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 そんな真には今現在、最大の悩みがあった。それは


 「ここがゲームの世界だなんてなぁ……」


 さて、読者の皆様はご存知の通り、彼はモブ以下の存在で描写もない存在。そんな存在になっていた真だが、ゲームの世界と気付いたのは幻葬士として働き始め敵と闘ってからだった。


 理由は単純、真が修行しまくっていたからだ。


 世界トップクラスの実力を手に入れることを目標にして行動してきた弊害で人との関わりを最小限にしていたのが原因である。そして、ここがゲームでは名前しか存在しない街であった。当然、メインキャラクター、サブキャラクターはおらず、イベントも無い。設定上の存在であったのだ。


 故に、真は見覚えのある雑魚敵と闘うまで気付かなかった。今やトップクラスの実力を持つ真にとって今更、分かってしまった事実は恐怖だった。何せ自分の影響で何が変わるか分からないからだ。そして極めつけはバッドエンド


 (確か、あのゲームって、どのバッドエンドも人間が惨たらしく全滅するよな……主人公がいるのかも分からないけどゲームと同じ展開にならなかったら未来が予想出来ないからヤバいし、今がゲームの時系列なのか全く分からないから対策も出来ない。……下手したら俺の人生って詰んでるじゃね?)改めて考えると分かってしまう問題に真はため息をつく。


 因みにゲームの名前はファントムキリングというRPGであった。SFチックの近未来な世界と魔導というファンタジーの融合によって生まれた敵。そして、それらによって作られたストーリーは主人公の行動によって変わるマルチエンディングで締められる。これらの要素が絶妙に絡み合い、それによって支えられた名作だった。もちろん、真もどんなエンディングがあるのか気になり何度も何度もプレイして攻略した。


 最も、流石にこんな感じでゲームを体験はしたくはなかったところであるが……


 そして、そんなことを考えている間に孤児院にたどり着く。目指すは先生の部屋。


 「入りますよ、愛菜先生」


 「その声は真ですね、どうぞ」優しげな先生の返事を聞いて、部屋に入る。


 「さて、今日の学校はどうでしたか?」幻葬士とは知らない先生は話題となる学校について聞いてくる。


 「いつもと同じ感じだよ」実際の所、幻葬士になる為の努力していた、現幻葬士の真には学校いや学園はお遊びも同然だった。まだ幼稚な子供が群がる中学クラスでの授業はむしろ、暇な程だ。


幻影ファントムと闘うのと比べたらなぁ)

 今の俺にとってはもはや、この世界での闘いは日常とは言わないが闘いの痛みに対する耐性は付いている。正直、腕の2、3本くらいなら我慢できる。流石に主人公みたいに内臓を掻き回されたりしたら耐えられないけども……。


 まあ、痛みを忘れず耐えられるというのは、ここが本当に自分の知るゲームの世界と知る前だった。という知る前だったからこそかもしれない……とは言え、怪我などがありふれている幻葬士として働いている以上、腕の2、3本くらいは我慢出来るというものが必要なことであった、というのが俺の考えだ。


 「そういえば、真はいつから、幻葬士になるつもりですか?」先生がふと思い出したように質問をしてくる。 


 そう言えば先生には、もうなっているとは言ってなかったから怪しまれるよなあ……とりあえず今日は誤魔化そ。


 「中学校が終わったらかな、まだまだ未熟だしさ」


 「そうですか?昔からずっと勉強してたので、私としてはそろそろ許可も考えていたのですが……まぁ、貴方のペースで頑張ってください」


 誤魔化せたな……さて、明日も学校があるけど……実技があるんだよなぁ、コレ。下手したら怪しまれる。それは、先生に色々と聞かれて、最終的に殺やられる可能性が大いにあるから困る。


 明日の目標は、無事に何も起こさず1日を終えること。


 「さて、今日はもう眠いし寝るか……」


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ーー


 「さて、明日が決行の日だ、君達、抜かるなよ」


 「ハッ!」


 「楽しみだなぁ」


 人知れず悪意は蠢めく


 まるで、底しれぬ深淵のように

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