第14話 一難去って、今度はニ難

 幻葬士支部は真が暮らす東瀛国燗都全域壁内の中で最も重要な拠点である建造物だ。故にその設備は多くの最新技術や幻葬士協会が秘匿する超技術が使われている。真の前世の地球の街中と比べて、かなり時代感が変わってくる。


 具体的には、街中が現代の地球に+αの設備(例えば、電気の代わりに魔導を用いた自販機等)で、それに比べてこちらは建物だとかがもうSFな感じだ、当たり前だがドアとかはSFゲームの扉そのまんまである。


 そんな神秘とは無縁の場所のエントランスで、どうしてファンタジーの代名詞たるドラゴンの骨格が存在していて、それが組み立てられているのだろうか?と疑問に埋め尽くされる真。隣では琴音が呆然と口を開けているが、こちらが視線を向けると気付いたらしく、顔を真っ赤にして背けた。

 

 「おや、君達は……」ドラゴンの骨格を持って組み立てていた白衣を着た銀髪の青年がこちらに顔を向けた。


 「久しぶりです、内田さん」真は自身の知り合いである骨格を組み立てている人に話しかける。


 彼の名前は内田 晃誠うちだ こうせい

 本人の自称曰く、心理学をかじった幻葬士。その割には科学も研究してたり、幻葬士の武器を開発したり、はたまた小説を書いていたりとやりたいことをやっている人。なんだけど、どういう訳かは分からないけど俺の正体をいつの間にか知っていた人だ。


 因みに気付いた理由は、小説ネタにできそうだったからだそうだ。多分、嘘だとは思うがバレている以上は侮れなかったりする。正直、バレるとは思っていなかった身としては非常に恐怖体験だった。


 「それで、今日は何をしようと?」この人のせいで大体うちの支部ではトラブルが起きるか、解決する。トラブルメイカーであり解決者だ。そして、琴音がいる以上何かが起きるまでには聞いておきたい。


 「俺の知り合いから送られてきた。何でも組み立てておいてくれって訳だ。さて、こっちも質問を」あんたの知り合い=だいたいヤバいことに繋がるフラグである。その口から出てくる質問をすぐに止めこっちがもう一度質問したかったが、離れた場所で事務員と話していた神楽さんから止められる。


 「はいはいストップね、ちょっとごめんねウッチーそいつはちと先約があるの」


 「なんだ神楽も一緒か、すまんな真、迷惑かけてしまった。話が終わった後で連絡をしよう」さらりと琴音の前で本名が明かされてしまう。内田さんにも伝えておくべきだったと真は勿論、神楽も後悔するが今更遅かった。


 「師匠って真っていう名前なんですか?」何やら、自分が話についていけないのか不機嫌だった琴音が今の発言に対して聞く為に真の方へと視線を向けてくる。


 その視線に負ける訳にもいかず、仕方がなく神楽を出汁に逃げ出すことにする。「神楽さん、琴音も待っていますから行きますよ」


 「はぁ、残念。じゃ行こっか」そう言って歩き出す神楽と真。当然、2人は自分たちがどこの部屋で話すかは分かっているのでどんどん進んでいく。琴音は置いていかれるのと説明をしてくれなかったことに対して余計に不機嫌になったがついていかない訳にはいかないので渋々同意し、歩く。


 そして、支部の2階にある会議室に着いた。議題は当然、今回の事件についてだ。


 本来なら……それが何故、こんなことになったのか真は神に聞きたくなった。


 部屋に入ってみると、議題がこれだったからだ。


 師匠と呼ばれる人についての説明。

 有原 琴音さんの今後についての説明。

 師匠さんへ昇格を!

 

 入ってすぐにフリーズするのは仕方がなかったとは本人の主観だが、それでもこの内容は流石にないのではなかろうか。


 「神楽さん、どうしてこんなことをしたんですか」

 魔導の発動準備を整え、脅、いや説得の用意を済ませる真。真の体からは魔力の粒子がうっすらと漏れてきている。しかも、地面に触れた粒子によって無属性の結晶で出来た柱が成長し始めている。


その状態の真が無言で放つ気迫を前に神楽は思わず引き攣った笑みを浮かべてしまう。


 「えっ、えーと、まあそのね。君、上から昇格が願われているんだ」凄まじく冷や汗をかきながら神楽は何とか怒りを治めてもらおうと弁明する。


 「それで?」だが、何も響かないらしい。真の顔は冷徹そのものであり、マスコミを追い払った時の神楽のゴミを見るような目そのものだった。


 「丁度いい感じに事件解決してくれたから昇格をさせようとね」そう神楽は言い切るとニコッといい笑顔で笑う。が内心では、真がブチ切れかかった気配を感じ、あ、終わったかも。と戦々恐々している。

 

 「そうじゃない。何故、琴音が巻き込まれているんだ。……まさか、琴音を本気でスカウトする気か?」より怒気が増し、魔力が柱を成長させる。イバラの棘のような鋭くねじ曲がった柱が自分のことより民間人の琴音を雇うというやってはならないような行為をしたな。という真の心情を如実に表していた。

 

 「そ、それは……私が望んだことなんです……」真の威圧を直接受けていないとは言え、最前線で戦う真の威圧は耐えられなかった琴音が神楽に詰め寄ろうとする真に声を上げる。


 「まぁ、それは本人の家族と本人も了承して貰っているからさ」苦し紛れの言い訳を最後に、神楽を軽く締めることが真の中で決定した。


 「ふぅ、《風塵誘導弾エアロ・ミサイル》《待機発動ロックオン》最終通告だ。何か言うことは……あるか」


 「あ、うん。昇格おめでとう」テヘっとウィンクをした。


 ブチ


 「《強化射出フルファイア》」


 「こはだ⁈」凄まじい勢いで吹っ飛んだ神楽はそのまま壁に叩きつけられようとしたところで受け身を取った。

 「セー「ちっとは反省しやがれ、クソ上司」


 プス

 「ガハッ」受け身を取った直後に飛んできた針が眉間に刺さり気絶した。


 「あああっ、神楽さん大丈夫ですか⁉︎ 師匠は絶対やり過ぎですよね⁉︎」目の前で吹っ飛んだ神楽を心配するがキレた真に対してどう出れば穏便に済むか知らない琴音は慌ててしまう。


 「大丈夫だ、こいつは流石にこんなことで死ぬ奴じゃない」実際、この人は戦線の指揮官を務めているしな。と自分にしか分からないことを思い浮かべた真は首を振った。


バタン


 「何が有ったんで!……おーA級幻葬士真くんじゃないっすか」今、何かがおかしい発言だった気がするが気にせずに真は入って来た人と向かい合う。


 「七海さん、お久しぶりです」知り合いである彼女、七海。月葉 七海に対して丁寧に挨拶をする真。気絶した神楽、慌てる琴音、再会した記念のハイタッチをする七海。この場は凄まじく混沌としていた。


 

 


 

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