第13話 状況って生き物みたいで厄介
領域が崩壊する際の閃光に包まれた視界、何も見えなかったが周囲の空気が変わったことは肌で感じた。領域域内の暗く陰湿な空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気に実感が湧く。
やがて、閃光が収まり目を開けた俺の視界に写ったものは……
晴天に包まれた屋上だった。
「ここにでるかあー」
今までの経験から無条件に崩壊する前の空間に戻されると信じていた俺は、変わりすぎてしまった光景に思わず呆然と声を出してしまった。正直にめちゃくちゃビックリした。
そんな様子の真に対して、声をかける琴音。
「師匠、ひとまずは協会に連絡しましょうよ」
「あ、ああ、そうだな。確かにな、すっかり忘れていた。コードネーム《ミラージュチェイン》応答せよ」
普段なら忘れない簡単なことにすら頭が回らないとは、どうやらA級としての自覚がまだまだ足りないなと恥じる真。耳につけている通信機を使い自身が所属する支部に連絡を取る。
連絡をしながら、階段を降りて学校の外へと足を進める真と琴音。領域に変わった影響で停電していて、なおかつ誰も居ないがその程度のことは分かっている二人は何も言わずに進む。
途中で連絡が通じ、歩きながら時々、扉の前や階段の前で止まり、分かっていることを報告する真。
そしてようやく外の光が入っている昇降口にたどり着く。真と琴音は、それを見た瞬間、思わず立ち止まり顔を見合わせる。それから互いに頷き、外へと足を一歩踏み出す。
そして、真と琴音は同時に外へと飛び出し……ようやくの思いで日の光を浴びる。
他の人間に、あるいは戦いを越えた真と琴音にとっても地獄にして処刑場……マスコミが待っていた。
「嗚呼、無情だ」外に出て2度目となる呆然とした声が真から漏れる。
「今、二人組が学校から出てきました。何があったのですか⁉︎」「学校内で事件があったようですが何が起きたのですか⁉︎」
真も琴音もこれは無いだろうと、呆然と詰め寄ってくるマスコミという生物の群れを眺めていた。両者、無表情となりマスコミから視線を外し無視を決め込む。
「おっと君たちそれ以上はやめてあげてくれるかな?」軽い口調で語られた言葉は、今にも逃げ出そうと考える真の動きを止めるものだった。
「……神楽さんかよ、よりにもよって何であんたかなぁ」自分の上司である人間に対して向ける言葉使いとして、ありえないであろう態度で真は疑問をぶつける。
「ハハ、私で悪かったね、さてと、マスコミの皆さんこの件はこの後、幻葬士支部にて記者会見の場を用意します。今は、中の生徒の救助並びに安全確認を行いますので離れてくださいね?」それに対しては何も無かったかのように無視を決め込んだ神楽と呼ばれる男に突如としてやってきた男性に記者の一人が文句を言う。
「君、私たちはあくまで質問を…」
「それまでにしておいた方がいいですよ」詰め寄る記者の一人に対して、神楽の正体を知る真は思わず止めに入る。何せ彼は……仮にも自分の直属の上司であるから、そんなことはやめてほしいの一言だ。もっとも、どの口が言えたのかという話だが。
「彼は幻葬士協会、特務官房長官、神楽坂 木葉よ」そして今度は琴音が口にする。彼女が口にする一言は真が言おうとしていた筈の一言だった。
「という訳だ。もう、やめてくれるよね?」軽い口調を消した神楽からは正反対の冷徹さを感じる空気を纏っていた。
「は、はいぃ」その様子に、思わず逆鱗に触れたと理解した記者団は学校から離れていった。
「さて、邪魔な連中は消えたし。君には支部に来てもらおうかな真くん?」マスコミが去ったので先程の言葉に対して、本性を剥き出しにしてキレる神楽。
「はいはい、上司のお言葉のままに」嫌々ご機嫌を取ることになった真の顔は非常に歪んでいる。その様子を見て神楽は愉悦を感じているようだ。
「師匠、私も連れて行ってもらいますよ」少し無視をされ続けた苛立ちから棘を感じさせる口調で言葉を挟んだ琴音。
真を師匠と呼ぶ琴音が声を挟んだ結果、真についに春が来たのかと騒ぎ立てる官房長官に連れられて三人は支部へと向かう。
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学校を背に幻葬士支部へと向かう車内。今は平日ということもあって車の量は比較的に少なく、快適な移動である。
もっとも真は非常に不満が溜まっているが。何せ自分の上司から向けられる質問は非常にしつこく、なおかつ、言質を取るような言い方で聞いてくる為、迂闊な返事が出来ない、答えられなければそうだと肯定しているのだと判断されかねないのも不満が溜まる原因の一つだ。
因みにだが、運転は免許を持つ神楽。助手席に真は座らされている。後部座席には琴音が。この3人が車に乗っている。
「あのぉー、師匠ってそう言えば何者ですか?」琴音にとっては恩人である真の正体は知りたいところだった。当然、打算もあるが……それ以上に彼のことが気になって仕方がないのだ。
「えっ、もしかしてこいつ、名前とか歳も話していない感じだったりする?というか、僕が言った真くんっていう部分しか知らない?」質問された神楽がむしろ驚きのあまり、逆に質問している。
「え、えっと、はい……」
「神楽さん、それ以上は……」そしてここで神楽が真にとっての逆鱗に触れてしまう。元々、この世界では主人公と関わりを持ちたくはなかったのに、何故か琴音と関わっている。その上でこれ以上トラブルの元になりかねないであろう自分の情報は黙っていて欲しかった。
「あらら、ごめんね、これ以上は彼に僕が殺されかねないから無理だねー」一見、残念そうな様子で語る神楽だったが、支部につけば嫌々でも真の正体が明かされることになるから、それまでの辛抱だ。
「じゃあ、しりとりでもしよっか?コレなら君の素性もバレないしね。駄目かい?」冷たい真の雰囲気を払拭しようと考えた神楽はシンプルな対戦ゲームのしりとりを提案した。
「……まあ、それくらいなら……」神楽を止めるという対応で琴音に対して少し冷たい態度になってしまっているのを自覚していた真はこの提案を蹴る訳にはいかず、仕方ないといった顔で受け入れた。
「それじゃあ」
神楽はチラリとバックミラーを見ると少しもじもじと居心地が悪そうに写る琴音を見つけた。(うーん、今後のこと考えると琴音くんを雇うかもしれないんだよなぁ……よし)「琴音くんから、スタート!」「ふぇ⁈」
当てられるとは思わなかった琴音はビクリと体を震わせてアタフタとしてしまう。小動物のようだなー、とバックミラーから見る神楽は思った。
「えと、その、リス」
「おおー、シンプルで良いね」神楽は思わず、ほわほわとした温かいものを感じた。真の場合なら、初手からリキュールと言った言葉で
そんな神楽を絶望に落とす声が響いた。
「俺か。スカル」「ぁ。」
こうして、車内の中では比較的に穏やかな時間が過ぎていった。
そして真はようやく、支部にたどり着くのだった。その先で、待つ自分を困らせるトラブルを知らずに。
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