第12話 おめでとう 君は師匠に進化した

 「何故、俺が師匠なんだ?」さっき言われた一言に対して、隣を並走する女子生徒、有原 琴音に疑問を問いかける。

 「それは、貴方が私と同じような気がするからです」返事は普通に返されたが、訳が分からない。


 (そもそも同じ?能力に繋がりか?はたまた出自のことか?……駄目だな、全く分からん)


 「あれが原因じゃないですか?」目の前に現れた“それ”に驚いたのか、声に少し震えが入っている。


 廊下に出て暫く、進み続けて約5分。俺達はついに、この現象を解決する為の場所にたどり着いた。


 「幻淵」幻淵、それは目の前に現れた漆黒の大穴を指す言葉だ。幻影領域内の最深部に存在する、領域の核とも言える大穴のことを指す。


 (だが……これは、小さいな)俺はこれまでに3回程、領域内に巻き込まれて入ってしまっている。が、そのどの穴でも5メートルは超えたサイズだった。だが“これ”は1メートルも無かった。


 「えぇ、あれが?私が今まで聞いていた限りだと、5メートル以上はある筈ですよね?」どうやら彼女も俺と同じ疑問を抱いていたらしい。


 「ああ、だが実際あれが原因であることは分かっている。さっさと壊すぞ。あれが存在していて、いいことは無い」彼女に同意はするが、それよりもコレをさっさと壊さないと困ったことが……


 起きた。「シュー」5メートルはある蠍と蜘蛛のような存在。全身は黒光りする甲殻で覆われ、巨大な尾がそびえ立っている。そして、そいつの余りの大きさからくる気色悪さに、隣で息を呑む音がした。こればかりは、俺でも共感できた。


 そしてモドキに怯えたのか、いきなり「な、何なんですか、アレは⁉︎助けてくださいよ、師匠ぅ」隣にいた彼女が俺に抱きついてくる。正直、色々と当たってしまいそうだし、敵が出てきた以上、戦闘になるだろうから、俺から離れて欲しい。


 そんな俺達の様子を見て、相手が動き始める。

 「チィ、来るぞ!」


 「あぁ、どうしてこんなことにぃ!」


 「シュー」


 戦闘が始まる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 先手を取ったのは、蠍モドキだった。


 そびえ立つ巨大な尾での薙ぎ払い、オマケとばかりに、毒液らしいものも飛ばしてくる。


 「ジュッ」本当に毒らしい。これは迂闊に攻撃を受けられなくなったな……


 「ヤバいですって師匠!こんなの、どうするんですか⁉︎」そんな愚痴を言いつつ、彼女も避ける。流石に実力主義な筈の生徒会に入っているだけあるらしく、敵の攻撃はスルリと躱していた。


 そして、躱した以上は反撃をお見舞いする。


 「《インビジブルチェイン》《風塵刀ブレイドチェイン・エアロ》《風塵エアロ・の鎧アーマー》」一息に3度魔導を使う。と、同時にゴリっと凄まじい魔力消費が俺を襲う。だが、その程度で魔導が使えなくなってしまう程の鍛え方をしている訳では無い。

 

 効果はそれぞれ、不可視の鎖の生成。先端にエアロ・ナイフで攻撃強化した鎖の生成。最後に、保健をかけて攻撃の8割を逃す風の鎧を自分と彼女にかけて完成だ。

 

 そしてここまでがおよそ2秒。


 目の前には、攻撃を放った俺を迎撃しようと蠍の爪が振われる。そしてこの一撃に、


 「限定術式|迎撃鎖《オール・カウンター》」相手の迎撃を、こちらも全ての鎖を使って迎撃する。


 ギャリンと火花が散る

 

 つまり、攻撃の相殺が起きる。


 「シャー」攻撃が弾かれたことに怒りを覚えたのか、突進攻撃を放ってくる蠍。


 「追撃だ、《壊れた鎖ブレイクチェイン》」相殺で欠けた鎖が一つに合わさり、直後、銀色の閃光となって蠍のそびえ立つ巨大な尾を襲う。


 「何⁉︎」思わず声を漏らす。確かに当たった筈の一撃なのに、放たれた閃光の一撃を蠍は無傷で耐えていた。

 

 そんな狼狽えた隙を突かんとばかりに毒液を飛ばしてくる。


 (駄目だ、防ぐための鎖もない)心の中で自分の迂闊さを呪いながら、久しく感じていなかった焦燥感を感じつつ、一撃で死ぬことがない様に回避を試みる。


 刹那……一陣の刃が駆け抜けた。

 

 「何⁉︎」


 気が付けば、逃げ惑っていた筈の彼女が魔導で作った水の刀で残心していた。信じられない思いで隣に立つ彼女に視線を向ける。逃げ惑っていた時の様子とは打って変わった冷静な瞳で敵を見据えている。


 「師匠なんですからしっかりしてくださいよ?」

 

 「すまない」彼女の言う通り、もっとしっかりと行動するべきだった。普段とは違う状況だったらとか関係無しに油断をしていた己を恥じる。


 自身の燃え盛る怒りを蠍に向ける。それと同時に無詠唱で周囲に鎖を浮かべながら睥睨し、今更ではあるがそれがなんだと問答無用で鎖を増やす。


 それに対して、蠍は今更何が変わったとのだと、余裕の態勢で攻撃を仕掛けてくる。


 「悪いが……」


 ギリギリまで敵の攻撃を引きつけ、直撃する寸前に肌を滑らす様に躱す。


 それを冷ややかな様子で見据える蠍の尾が引き絞られ、躱しようの無い一撃が迫る。


 「師匠何を⁉︎」


 激しさを増す攻撃に彼女は必死の表情で俺に言うが、対する俺はどうでも良いとばかりに無視をする。彼女から離れながら、蠍の一撃をフラリ、フラリと躱し、次いでと放たれた毒の一撃は鎖で防ぐ。


 その様子に彼女は目を丸くしていた。


 「すまないが、俺にはまだやり足りないことと、やりたいことがあるんでな!」


 蠍に対して、自分は今まで侮っていた。そんな己を戒め、先に進む一撃を放つ。


「《終焉の鎖ラスト・チェイン》」生成した鎖の数、砕かれた鎖の数、それぞれに応じた一撃を放つことができる。まさに、俺にとって使い勝手が大変いい大技。


 「グギャヤヤ!!」


 蠍が断末魔をあげる。


 「師匠!」


 「終わったよ」


 驚いた様子の彼女が近くに寄ってくるのを横目に俺は軽く返事をした。核となっていた蠍は光となって消えていく。それと同時に


 ゴゴゴ


 地鳴りのような音が領域に響いた。

 「師匠……まさか……」何の音か悟ったのであろう彼女が視線をこちらに向ける。


 「悪いが、来るぞー」


 そう言うと同時に俺達の身体を閃光が覆った。


 


 

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