第33話 日常と裏の狭間にて
目がパチリと覚めて、辺りを見渡す。おかしなところはない上品な部屋だ。昨日から真は八蛇は
ダイニングに入るとそこには老眼なのかメガネをかけて新聞を読むガーディがいた。
「ガーディさん、おはようございます」
「ああ、おはよう。あ、そうだな料理を作ってくれよ」と軽く頼まれ、真はキッチンに移動する。
ガーディを含めて八蛇の人間と過ごした時間は1日だけだが仲良くはなれたと思う。
思考を一度料理に向ける。4人分の朝食は孤児院で手伝いをしていた時を考えると軽い軽い。手っ取り早か用意するために火魔導も併用して幾つもの作業が同時に進み、数十分で全員の料理が用意された。
メニューはご飯を中心にお味噌汁。後は冷蔵庫の中にあったキュウリと大根の漬物、小松菜のおひたしが出された。
ご飯はとても艶やかでふっくらと炊き上がっており、お味噌汁も旬のほうれん草が使われおり、合わせて入っていた大根との食感の違いを楽しめる。小松菜もまた、同様にしっとりと味付けされており優しい味だ。
ひとまずガーディと己の分をよそってお盆に載せる。
「お、ありがとよ。でどうだルーとは仲良くなれたか?」ニヤニヤとガーディはまるで恋バナを始めた昨日のルーのように笑っている。
が、生憎とガーディが期待している内容はない。至って平静に答えられる。
「成果はまあまあですかね。それで家に帰っていいんですよね?」
「あ、ああ。訓練にさえ来るのなら、セーフハウスとしてそこを使っていいぞ。そして……他の奴らにバレないようにしろ。絶対にだ。他者にセーフハウスがバレた時が一番悲惨だ」
先達としての重い忠告に頷いて真はいそいそと孤児院もとい家に帰るためにオロチの巣を後にした。
「帰して良かったんですか?」
ルーは真の背中を見送ると館の中へ去っていくガーディに追随して問いかけた。
「良い訳ないだよなぁこれが」
はぁ、と快活な彼に似合わないほど深いため息をこぼした。
「お前達含めて、これ以上死なせたくねえんだ。鍛えて鍛えて折れないように曲がらないようにしないと……な。悪いなダセエことを言った」
彼の瞳には深い後悔と決意が浮かんでいた。
「…窮鼠猫を噛む。と東瀛では伝えられる言葉があります。私も、彼もそう簡単に死ぬ気はないですよ」少し強がりながらも言い切ったその言葉を聞いたガーディのその時の表情をルーはきっと一生忘れないだろう。
「ああ、なら大丈夫だな。じゃ、まずはお前の訓練だな」
きっと、それは変化していく世界に取り残される古兵が唯一できた笑顔だった。
さて、真がオロチの巣を出ておよそ五分程歩いて一度立ち止まる。周囲は未だに暗く早朝と呼べる時間になるまではもう少し時間がいるだろう。
頃合いか。
バレないようにしろ。そうガーディに言われた通りに光学迷彩を使う。
そうして、そのまま目的地へと道なりに進めば今まで暮らしていた奈月市の中央を走る国道に出る。
そして、国道へと足を踏み入れた瞬間に耳に取り付けた通信機が振動した。どうやら誰かがこちらに連絡を入れたいようだ。
「はい、こち『あー、コチラ《虚妄》。おっと返事はしなくていい。これはお前さんが国道へ踏み入った時に流れる録音だ。用件は一つ、コードネームを決めておけ。カッコいいのをな』
コードネーム……その単語を舌の上で転がす。成る程、十二秘奥では第三席というのが自身を示す地位もとい立場であり名称だった。けれど暗躍者としてのコードネームは有していない。任務を考えれば暗号などを造る際にそれは必要になるだろう。
カッコいいもの、そう考えて辺りを見渡す。丁度時計は7:00を指した。時計の針…時刻…2文字程度ならどんなものでもいいのだろうか。
などと考えている内に、早いもので真の自宅に面する道路へと戻ってきていた。
いつものように、数回ノックして扉の前で待つ。居ないらしい。
「誰も居ないか」静かで落ち着いた空気の玄関に入る。靴を脱ぎ揃えて上がる。琴音の靴は無いから孤児院に泊まったのかもしれない。
慕われているしな。などと考え、真は自室に入った。
オロチの巣で与えられた部屋と違い、こちらの部屋は近未来な印象を受ける。けれど変に不便で部屋にロックをかけるのなら指紋認証が必要だったりと、一部の感覚が地球の平成辺りで止まっている真には少し辛い。
「結局のところ、表と裏でスパイやるのか俺……今度は琴音巻き込まないようにしないとな」表は十二秘奥という幻葬士の中で防諜スパイを裏では国家のスパイを。
表の世界でなら、彼女の特異性故の苦しみかは守る結果には繋がりえるだろう。
「ごめんな……」
誰に対してかの謝罪は壁に反響して消えていった。
〜物語の裏側にて〜攻略不可能ヒロインと俺の暗躍 高麗豆腐 @kouraidofu
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