第2話 知らない天井

帰り道で、どうしてこうなったのか、主人公はふと、自分が転生した直後を思い出していた。

__ __

俺は会社での労働で疲れた体を休めるために家で睡眠を取った。幸いにも、明日は休み。いくら寝ても休んでも、俺を責める上司や同僚はいない。


明日は、何をするか……。


そう思って寝たのが、地球での最後の思考だった。


パチリと目が覚めた。


ふと視界に入ってきたのは、自宅の薄汚れ照明だけがついた物寂しい部屋の天井ではなく、清潔感のある知らない天井だった。


背中から伝わる感触は、柔らかい。普段使う安い敷布団とは違う、羽毛が使われたベットだ。


確定的だが……どうやら俺は何処か知らない場所の、それもフカフカのベットで寝ているらしい。


視界に映っていふ真っ白な天井とは正反対に俺の心は真っ黒な絶望に染まった。


こんな風に知らない場所で、尚且つフカフカのベットで寝ているのだ。間違いなく病院の類だろう。


どうして自分がここの病院にいるのかは分からないが、それよりも自分が病気かなんかで寝てしまったせいで下りる事になる保険金が下りる事になるのを会社で糞上司に金を使うな‼︎と怒鳴られる事になる。そう思うと憂鬱だった。


 ガチャ


ん?糞上司って誰だ。いや、そもそも俺は誰だ。えーと俺は確か……。


「目が覚めましたか?はぁ……全く、こうなるから図書室で走って遊んではダメだとあれほど教えたのです」


ようやく思い出した。俺は孤児の鏡野 真 だ。


確か、今日は外で雨が降ってたいたから仕方なく、友達と孤児院の中で鬼ごっこをして遊んでいて、それで見つからない筈の図書室に逃げ込んだんだっけ。そこで勢い余って本棚に正面からぶつかって……どうしたんだろう?ただ、頭、特におでこがズキズキと痛いから相当な速さでぶつかっていたかもしれない。


「これからは図書室に入って遊ばないように、それから今日は貴方が私を手伝うように、それともまだ熱がありますか?」


そう言って先生は俺の額に触ってきた、なんだろうこの人には逆らえる気がしない。


「まだ、少し熱がありますね……仕方がありません、今日はしっかり休んで明日、私を手伝ってください、いいですね?」


ここで返事をしなくちゃいけない気がするな、というかしないといけない。そうじゃなきゃ先生が……怒る気がする。

「チェー、分かったよ」


思ってもいないぶっきらぼうな言葉が俺の口から出ていた。なんだろう、今の俺は自分であって自分じゃないような気がする。そんな風に内心悩んでる俺を置いて先生は出て行った。


改めて、さっきの自分の声を思い出す、小学生特有の高い声。大人になって、社会の重圧に押し潰され嗄れていた筈の俺の声じゃなかった。

 

改めて、自分の事を思い出す。


俺の名前は 鏡野 真 4歳 日本人?だ。


両親は確か、テロで亡くなってて……俺は天涯孤独の身。


両親の友達であった先生が経営する、幻葬士の孤児院に迎え入れられた。友達は同じ孤児の子しかいなくて、すぐに先生に叱られる。

 

さっきもふざけすぎて頭をタンコブが出来る程の速さでぶつけたんだけど……多分、熱が出たのは、前世?の記憶を思い出した知恵熱或いは疲れみたいなものだと思う。

 

ただ、この記憶は余りにも不鮮明で靄がかかっている。


自分の記憶にある前世の名前とか仕事してたかも思い出せないし、家族関係とか自分に関係する事全部が思い出せない。ただ、コンピューターと鍵の知識はあるからどちらかは仕事だったのだろう。


そんな前世の記憶だが……前世の世界の歴史とか当時の流行とかそういう世間的なものは覚えている。


自分の身の事だろうが、他人から聞いたような全く不思議な話だとも思っている。

 

ただ、俺と言っているように今世の記憶も混ざっている気がする。

 

確か先生は来年から学校があるのだから真面目に勉強しなさいって言っていたっけ?となると結局ここは異世界でも何でもない、ただの地球なのだ。そう分かった以上、途端に今世が嫌になってしまった。


「さっさと寝よ」



ここが異世界だと勝手に思って損したと思っている彼はまだ知らない、ここは地球と同じ道を辿らなかった地球そっくりの異世界だと。

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