第28話 始まりの前舞台

真がシャワーを浴びた日から、2日。


世間は土曜日。道路には車が過ぎ去り、道には家族連れの姿も見てとれる。


そんな日常が描かれる衛ノ島は、その実に反して東瀛屈指の要塞都市だ。


そんな場所に、準備を整えた真は携帯を片手に1人立っていた。


格好は、高校生くらいのファッションだ。

黒のスキニーパンツに紺色のシャツ、それにブラウンジャケットを羽織って、さながらデートの待ち合わせをしているように見える。


そんな格好をした真は、どこか物憂さげな雰囲気をまとうことも相まって、少々視線を集めている。しかし、それを気にすることは無く真は電話をかけた。

「手渡しで頼んでも? ああ、どうも。では」


「あ、すみませーん」

しばらくして、1人の女性が電話が終わった真に声をかけてきた。

「ん?」

真が声の方に視線を向ける。見れば、真と同じような年齢のファッションをしている。

恐らく、高校生だろうか。少し、頬が赤い。

「僕ですか?」

「えっと、そうです。これからの時間って空いてます?」

「ブラブラしてたんで空いてますよ」

嘘は無い。正確には、支部の周辺の下見のためだったが、それを口に出す理由はない。


真の言葉に目を輝かせると、女性は懐から二枚の紙切れを取り出した。

「もし良ければ、私とカフェ行ってくれません?」

そこには、二人組優待券という文字が印刷されていた。


ーー

女性の持っていた優待券が使えるカフェに入って、それぞれ飲み物を頼んだ。


パフェが待ち遠しいのか、周囲を見てそわそわしている。ちょっと待って落ち着いたのか、彼女は真に感謝の意を述べた。

「ありがとうございます。おかげさまで、DXツインパフェ食べられました」


「いえ、こちらこそ。奢ってもらって、すみません」 

そう真が言ったところで彼女は、先と同じように一枚の紙を取り出した。


「ところで-」

「---」


ーー

真がカフェで女性と会話している頃、先日会話したフェオドールは衛ノ島支部の倉庫の一つにいた。


倉庫の中は、少し埃臭く影に覆われている。そんな場所に彼女は名前も知らない何かから先日呼び出された。


勿論、彼女は最初、訝しんで断りを入れたが、続いた言葉に気を変えた。


『フラグメント』


続いて、後日の座標を伝えると会話は終わった。


そうしてやってきた倉庫には、黒染めの女とも男とも取れる人間が立っていた。


「待っていた」

「御託はいらないです」


「招待したい。メダリオンの後継者」


その言葉と、同時に取り出された物によって彼女の顔は歪んだ。


「それを、どこで手に入れたのですか!!」


チャリと音を立てて、ネックレスのメダリオンが輝いた。


そんな彼女の憤りを知らぬように、それは彼女に一枚の紙を投げた。


「なっ、何処で知ったの!? 答えて!」

「だからこそ、招待したいのだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る