閑話 表の剣 原作主人公編

25話毎に原作主人公編もとい、表舞台編を投稿しようと考えています。


端的に言うなら、真と琴音の活躍で表側で何が起きているのかを把握してもらえればなと。


今回の話は、いわば主人公のプロローグの前、0話といったところでしょうか。


それではこれからも本作をお楽しみください。


あ、良ければ評価の星をください。駄目なら一つで結構ですので。どのような評価であれ、それを励みに書いていきますので。


ーー


目を焼き焦がす、熱と光。


零斗に、親はいない。試験管の中で生まれた命だからだ。兄弟もいない。たまたま同じ日に生まれた人間はいた。


その日も、殺し合いはあった。相手の息の根を止めたところで急に頭に響くような音声が無くなった。


いつもなら零斗を出迎えてくる白衣人間の扉から銃を構えた男と女が入ってきた。


そいつらも殺そうとして、獣もかくやと飛びかかった。けれど、動きを読み切った2人に制圧されて、ここで死ぬと悟って意識は落ちた。


次に、零斗が目を覚ましたのは白の部屋だった。そこで初めて、傷を癒やされた。


長い時間をかけて、零斗は人の言葉を知った。そして、幻葬士を知った。


その日、獣が1匹死んで守護者が1人生まれた。


人間たちの暮らしを守る幻葬士に助けられ、己もその道に生きる。それが零斗の生き方であり人生だった。


手を汚した分だけ、友を人を助けようと誓った。けれど、どうやら世界は零斗にその機会を与えないらしい。


「そんなに、そんなにPandoraパンドラが欲しいのか!?あんな人を壊す、あんなもののために人から俺から奪うのか、命を!平和を!あいつらは!?」


先まで確かに存在していた街の一角の日常は、ものの一瞬で鉄と焔に飲まれて灰になり、血に染まった。


「誰か、誰か、頼む。返事をしてくれ!!誰か……」


幻葬士協会は、重要な機密の護送にも関わらず護衛を増やせなかった。


それを目的地に運ぶにはどうしても街中を通らざるを得ない場所があった。よりにもよってそこは幻葬士を一番嫌っていた地域でもあった。裏切り者が潜んでいるとも言われていた。


零斗はその時、壁外の敵から運良く護送がバレていることを聞き出せた。すぐさま、任務を放棄して街の一角を目指した。そこには、かつて己を助けてくれた彼等がいた筈だった。


「任務を放棄する。通信を切るぞ」『なっ、零斗っ!?』

無事を願った。彼等は随分前に結婚していた。零斗が成人を迎えて暫くして子供が産まれたと聞いた。


2人は、もう引退している。巻き込まれたら死んでもおかしくない。ひっきりなしに通信機が音を奏でる。それは、零斗にタイムリミットを示すようだった。


「あ、ああ、アァァアアア!!!」


間に合わなかった。間に合わなかった。間に合わなかった。間に合わなかった。間に合わなかった。間に合わなかった。


「目撃者を確認排除します」無機質な声がこだました。


「……ま」


グシャリと手の中で何かが潰れた。


そして、喉を枯らす勢いで生存者を探した。人くらいの大きさのものを見ては、探して、潰して…ようやくたった1人子供を見つけた。


この子の母親と父親であろう事切れたあの人達の下で、父母の献身のもと少年はかろうじて生きていた。


たった一人の幼い少年だけ。それが、零斗が救えた命の数だった。


(すまない。すまない。俺が、俺が遅かったせいで奪ってしまった。守ってやれなかった。)


少年を抱きかかえると涙が溢れた。今まで、目の前で仲間が死んでも泣かなかった。けれど、ようやく大切なものを知った。遅すぎたけれど。


じきに焔がここを灰にする。零斗が頑丈とはいえ、子供は長く焔の空気を吸った。急いでここを離れないといけない。


零斗は悔しい顔で事切れた2人の瞳を閉じた。

(すみません。すみません。2人のことを俺がこの子に伝えます。素晴らしい親だったと、俺がこの子供を命に代えても伝えていきます)


傷だらけの少年とその身体に根を張る紅を抱きかかえ、焔の海から逃げ出せた零斗はその日少年の父親になることを決めた。


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