第28話 勉強会の誘い
「助けてくれよぉ蓮~」
「事と場合による」
「そこは数少ない友達のためならって頷くとこだろ」
「まずは俺の友達が少ないって事実を突きつけたことを謝れ」
「ごめんなさい」
翌週。
いつものように四人で集まって昼食を食べた後の雑談タイムでの出来事だ。
涼太の話を要約すると、テスト範囲の勉強を一緒にしようという勉強会の誘いだった。
とはいえ、涼太の成績は決して悪い方ではない。
突出していいわけでもないが、進級に困らない程度には点数を取れる。
「いいんじゃない? 私も参加するわよ。本倉さんはどう?」
「……私もいいのですか?」
「当たり前じゃない。むしろ、本倉さんがいてくれたら心強いわ」
すっかりこの輪に
学年でも一桁順位の悠莉がいてくれれば頼もしい。
美鈴も相当に成績がいいので、既に勉強会をするには過剰戦力な気もする。
「楠木もね」
「それはいいけど……場所どうするんだ?」
「楠木の家でいいんじゃない?」
何気なく美鈴が言ったそれに、悠莉も涼太も頷いた。
このままでは流れで押し切られると感じ、慌てて待ったをかける。
家は楓がいるし、悠莉も来るなら勉強会だと言っても変な
「いや、他にもあるだろ」
「実際問題、蓮の家が一番丸いまである。俺の家は狭いし」
「私の家は……色々と面倒なのよ」
「私の家でよければ空いていますけれど……」
「それはダメ」
悠莉のそれを美鈴が却下する。
俺も涼太も同意を示すように頷いていた。
「一人暮らしの女の子の家に男を入れられないわ。それがたとえ私の涼太と一見人畜無害そうな楠木だとしてもね」
「でも、蓮くんはお見舞いのとき、私の部屋に――」
悠莉が流れで漏らした言葉。
俺が弁明をする前に反応したのは美鈴と涼太だった。
含みのある視線と口元の笑みを隠すことなく俺へ向けてくる。
「違う。お前らの想像しているようなことはなにもない」
「と言っていますが、本倉ちゃん。真相は?」
「ええっと、蓮くんはちゃんと看病してくれましたけど……?」
「楠木、貴方……本当に男?」
「失礼な」
「意外と蓮はへたれなんだよな。なんつーか、初心っていうか」
「うるさい」
好き放題言いやがってと両者に言い返して、気分直しにパックのコーヒー牛乳をストローで吸う。
どうやら本当にわかっていないらしい。
その純粋さを
ただ、これ以上この話題を続けるのは良くない。
「んで、仮に俺の家でもいいとして……俺の家ってわけじゃないけどさ。いつやるんだ?」
「週末にしましょう。みんなの予定が合えば、だけど」
「俺は大丈夫だぞ。てか、紗那と会えるなら予定くらい開ける」
「俺も問題ないな」
「私も行けると思います」
「じゃあ決定ね。詳細は後から詰めましょう。とはいっても集合時刻と解散時刻くらいしかないけれど」
そんなわけで、期末考査に向けた週末の勉強会が計画された。
時は流れて、週末。
俺は自室のチェックをしながら、三人が来るのを待っていた。
部屋の掃除はしたし、服や髪なんかも来客に備えて整えた。
折り畳み式のテーブルも出したし、世話を利かせた母さんが茶菓子までおいていっている。
冷房も程よく利かせていて、部屋は過ごしやすい気温に保たれていた。
三人が来たら調整すればいいだろう。
特にみられて困る物もない……ないはずだ。
ベッドに腰を下ろしつつ適当に時間を潰していると、ピンポーンとインターホンが鳴った。
来たのかと玄関の扉を開ければ、私服姿の悠莉と美鈴が佇んでいる。
勉強会のため荷物はそんなに多くないが、悠莉の右手には紙袋が下げられていた。
梅雨と夏の間、もう暑さを感じるようになった気候に合わせてか、それぞれに似合う涼しげな服装をしている。
「おはよう、楠木」
「おはようございます、蓮くん」
「二人ともおはよう。涼太はまだ来てないけど、とりあえず中入ってくれ」
二人を部屋に通すと、どちらからも感心したような声が上がった。
「なんだよ」
「意外と綺麗にしてる、と思って」
「美鈴……それ褒めてるのか?」
「褒めてる方よ。ね、悠」
いつの間に名前……というか愛称呼びになったんだろうかと思いつつも、悠莉は頷いて部屋をぐるりと見まわした。
俺の部屋なんて見ても面白いものはないだろうに。
あるのは部屋中央のローテーブルとベッド、漫画が半分くらい収まった小さめの本棚、時たまゲームをするためのモニターが棚に鎮座している程度。
服の類いはクローゼットにしまっているから、外に出ているものはない。
日ごろから綺麗にしているつもりだし、三人も来るのだから一通り掃除はした。
二人の反応を見るに、及第点以上ではあったのだろう。
ひとまずほっとしつつ、
「二人とも、何か飲むか? 麦茶、インスタントのコーヒーか紅茶、あとなんかのジュースがあった気がするけど」
「じゃあ、私は麦茶でお願い」
「私は紅茶をお願いします。あと、これを。昨日のうちに焼いていたパウンドケーキです」
悠莉は持ってきていた紙袋を手渡してきた。
紙袋の中には甘い香りが充満していて、つい表情が
焼いていたということは、これは悠莉の手作りか。
……料理が出来るっていうのは本当だったんだな。
しかも、味にも期待できそうだ。
「三時のおやつにでも出させてもらうよ」
「そうしてもらえると嬉しいです」
ありがたく
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