第18話

「グルルル」

 それに追い打ちをかけるようにくまが私達の前に現れる

「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁああああああ!」

「あわわわわわわわわわわわわわわわ!」

「蓮んんんんんんんんんんんんんんん!」

 くまの出現が私達にとどめを刺し、混乱の絶頂に連れて行く。

 私は無意識のうちに胸元からナイフを取り出し、構える。

「くま公!」

 だが、くまの出現に最も過敏に反応したのは私達三人ではなく蓮だった。

 憎悪の色を色濃く見せ牙をむく。

「死ねゴラ!」

 くまに向かって走り、全力で拳を振り抜く。

「グルルル!」

 そして、そのまま蓮はくまと死闘を演じる。

 実際に蓮は何回か死んでいるしね。

 文字通りの死闘である。

「おらぁぁぁあああああああ!」

 そして蓮はくまを完全にフルボッコにしてみせた。

「「「えぇぇぇえええ」」」

 私達はその光景を見て若干引く。

 本当にくまを素手で殴り殺す人なんて始めてみた。

「ふぅー」

 蓮は息を吐く。

「あー」

「す、すごいのね。くまを素手で殴り殺すとか」

「はぁはぁ」

 部長が少し引き気味に蓮に話しかける。

 そして、私は言うとくまの血の匂いで少し昂ぶってしまっていた。

 ……私は部長の隣で何を考えているのだろう。

 自分で自分が嫌になった。

「ん?あぁ。なんかくまだけは許せなくて」

「そうなの!」

「うん。例えば黄色いくまさんとかも見るとムカつく。『ぼぐばぐまのぶーざん!ばぢみづだべだい!』とか言ってる黄色いくまもそんなにはちみつ好きならはちみつの海に沈めて窒息させてやる!って思う」

 ……某くまはそんなに濁点まじりの言葉で話さないわよ。

「そ、そう」

 部長も若干引いている。

 ひな先輩は謎にアホ面を晒している。

「はいはい。なんでそんなにくまを恨んでいるのかしら?」

「ん?……もうそんなに昔のこと忘れちまったよ。結構昔の話だしなー。戦争とかの記憶が強すぎて」

「あ、ごめん」

 いつもハイテンションのひな先輩も蓮のその言葉でテンションを落とし、頭を下げる。

「ん?あぁ、別に気にしなくていいよ。もう昔の話だし。さて、と。それで。ここどこ?通ってきた道と違くない?」

「はぁはぁ」

 蓮は辺りを見渡し通ってきた道と違うことに気づき、首をかしげる。

 ここらへんはずっと森が続いている。

 見えるのは木。木。木。

 ずっと同じ景色。

 よく通ってきた道じゃないってわかったわね。

「あ、あぁ。ちょ、ちょっと道に迷ってしまってね」

「え?やばくない?」

「えぇ。本当にやばいわ」

「チョー大変!」

 ……本当の本当に緊急事態なのに、ひな先輩が言うと緊張感が一気に無くなるわね。

「えー。どうするの?」

「どうしましょうか」

「ノープランなのね」

「お恥ずかしながら」

「じゃあ、僕がなんとかす」


 ぶつん!


 いきなり目の前が暗くなり、次に視界が開けたときには側にいたみんなの姿はなく、一人ボッチとなっていた。

「え?」

 

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