第9話

 

「いやー、助かったわ。やっぱオカルト部に頼んで良かったわ。まじでありがと!」

 次の日。

 花子さん人形の件を春木に説明した。

 花子さんはいなかったので安全ですよと。

 流石に昨日あったことを正直に話すわけにはいかない。

「いやいや、気にしないで」

「おう!あ!明日の放課後にみんなでカラオケに行くんだけど、二人もどう?」

「あぁ、ごめん。行けないんだ」

「私も遠慮しておくわ」

「あぁ、そッカ!じゃあまた今度誘うわ!今回はまじで助かった。ありがとな!じゃあまた明日!」

 花子さんの件の依頼人である松岡春木が部室を去る。

 ほんと馬鹿みたいに明るくて苦手な人。

「はぁーッ!いいなぁー!私も人形じゃなくてリアルの花子さんに会ってみたかった!」

「だよね!!」

 松岡春木がいなくなったあと、部長とひな先輩が叫び声を上げる。

 先輩たちには昨日あったことを正直に言ってあるのだ。花子さん人形もオカルト部の部室に置いてあるし。

「別にそんなに羨ましいものじゃないと思うけどね」

「僕の右腕が食べられ、両足が引きちぎられることを見ても平然としていられると言うのなら別にいいけど」

「「うっ……やっぱいいや」」

 部長もひな先輩も少し顔を青くして、拒否反応を示す。

 まぁそれが普通の反応よね。

「お、おい。そんなに見つめられると俺も恥ずかしいんだが……」

 そして弘樹先輩はというと、じっとテーブルに載せられた花子さん人形を眺めていた

 それに耐えきれなくなった花子さん人形が照れるように声を上げる。

 だが、弘樹先輩はそれを無視してずっと見つめている。

「あ、あぁ!そんなにリアルの俺と会いたいなら、霊体だが姿を顕現させられることはできるぞ!」

 とうとうにいたたまれなくなった花子さん人形が弘樹先輩が食いつきそうな話題を話す。

「ほんとか?」

「あぁー本当だ!」

「是非お願いしたいわ!」

「えぇ!本当に!みたいみたい!」

「ちょ!お前ら、邪魔だ」

 だが、その話題に大きく食いついたのは弘樹先輩でなく、部長とひな先輩だった。

 花子さん人形の正面に座っていた弘樹先輩を押しのけて部長とひな先輩が身を乗り出す。

 部長の好物は西洋のオカルトで、東洋のオカルトに興味なんてない。

 と部長は言っているのだが、実際のオカルトを前にしては興奮を隠せないようだ。

 まぁ、じっとひろき先輩にじっと見つめられるということはなくなったので花子さん人形としては成功だろう。

「あぁ!いいよな?蓮」

「うん。いいよ」

 花子さん人形は一度蓮に許可を貰った後、自分の霊力を高めていくまぁ、私には霊力をなんて感じられないから、本当に霊力を高めているかどうかなどわからないけれども。

 ちなみに、霊力とは妖怪など人ならざるものが持っている力のことを言ううらしい。

 あと、蓮が霊力は持っていないと言うことも聞いた。

「ふん!」

 花子さん人形は一度気合を入れる。

 すると、花子さん人形が光り輝き、花子さん人形のわずか上空に一人の女の子の姿が見えるようになる。

「「おぉー!」」

「ふむ」

「あら?」

 花子さん人形のわずか上空に見えるようになった少女は私が見たときのものとは違っていた。

 背丈、服装、髪型は同じだ。

 しかし、顔は明らかに違った。

 目も鼻も普通にあるし、大きかった口も標準的なサイズになっている。

 顔立ちはとても整っていて、可愛い美少女にしか見えない姿となっていた。

 怖さもくそもあったものではない。

「興味深い」

 弘樹先輩が花子さんに興味を抱き、花子さんに向かって手を伸ばす。

 しかし、弘樹先輩の手は花子さんに触れることはなかった。

「おい!いきなり触ろうとするなよ!びっくりするだろ!……俺は霊体なんだ。普通の存在が触ることはできない」

「むっ。そうか。残念だ」

「あら、そうなのね……」

「えぇー!」

 テンションを落としたのは弘樹先輩だけでなく、部長やひな先輩も大きく肩を落とした。

「あぁ!そんなにがっかりしないでくれ!」

 その姿を見た花子さんが慌てる。

 最初に出会ったときの人絶対殺すマンはどこに行ってしまったのかしら。

 それにしても、この花子さん。

 少し可愛いわね。

 素直で初心で。

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