第10話

「花子さんについてはもういいんじゃない?僕の不老不死について何か調べてきたんじゃないの?」

 今日はようやく不老不死について先輩たちが調べ終え、それを教え合うために集まったのだ。

「私の方は全然。不老不死の伝説を知ってる人なんていなかったわ」

「僕が調べた中でヒットしたのは始皇帝が求めた不老長寿の薬くらいか」

「えぇ!それってどんなの!?」

 弘樹先輩の発言にひな先輩は過剰に反応する。

 まぁ、過剰に反応するのはいつものことね。

「じゃあ、始皇帝が求めた不老長女の薬についての解説をしようか」

「はい!」

 そして始まる弘樹先輩の解説コーナー。

 ちょいちょい開催されている。

「まず。不老長女の薬で欠かせないのは二千年以上も前に中国にいた徐福という不思議な人物だ。徐福の事績は『史記』の『淮南衡山列伝』に記されている。紀元前三世紀。中国全土を統一した秦の始皇帝は次第に、神仙に傾倒するようになっていった。統一国家の成長を見届けぬままに寿命が尽きることを愁い、不老不死になることを求めたからだともいうらしい。そんな始皇帝に『東方の三神山に長生不老の霊薬がある』と奏上したのが方士の徐福だった。ここまで質問は?」

「はい!」

 ひな先輩が元気よく手を挙げる。

 そこはかとなくバカっぽいのよね。

「方士とは瞑想や気功などなどの方術を用いる人々のことを指す。古代中国において、方士は特殊な術を用いることで時の権力者からも信頼される存在とされていた。そんな地位にある人物が奏じたのだから、始皇帝も本気になったのだ。徐福のいう三神山とは、蓬莱・方丈・瀛州のことを指すらしい。それは渤海のの先にある神仙が住むとされた山のこらしい。さっそく徐福は命を受けて東の海へと出発した。その時には3000人の童男童女と百工と財宝に五穀の種子を詰めこんでいた。こうして船出した徐福一行が帰ってくることはなかったとされている。『淮南衡山列伝』では、平原広沢を得て王となったと記述されている俺も読んで確かめた。それで。今の所質問あるか?」

「ありません!」

 ひな先輩が元気よく答える。

「よかった。じゃあ続けるぞ。。この出来事は紀元前219年頃のことと考えられているのだが、日本ではようやく長い縄文時代が終わり弥生時代を迎えた頃の話なのだ。まだこのころ日本には文字で記録されるような文明はなかった。そのためか『古事記』『日本書紀』には徐福に関する記述は一切ないしかし、ただ不思議なことに古来より日本の各地には徐福が暮らしたという伝承が残っている。新宮市にある徐福公園もその一つらしい。ここには公園が整備される以前、江戸時代前期に紀州徳川藩初代の徳川頼宣の命でつくられた『秦徐福之墓』の碑が立っているんだ。まぁ、オカルト部としては調査しがいの有りそうな話だが、日本の中での不老不死の存在である蓮くんにどこまで通用するのかは疑問が残こるがな」

「まぁそうだね。僕の瞳はヴァイオレットだし、僕のルーツに関係あるのだとしても、中国よりも欧州と考えるほうが自然な気がする」

「だよな」

 弘樹先輩も実際のところは違うのではないかと予想していたのか、あっさりと引く。

「じゃあじゃあ!私が調べた、人魚の肉を食べて800歳まで生きた女の人の話は!」

「まだ、こっちのほうが可能性あるか?」

「いや、僕はそんなの食べてないし、親が人魚だということもない。普通に死んでいるからな」

「そっかー」

 ひな先輩が調べたものは蓮本人が否定する。

「いや、ひなはよく調べたよ。よくやった」

 それでも弘樹先輩はひな先輩を褒め、頭を撫でる。

「そう!よかったぁ!」

 ひな先輩も嬉しそうに顔を綻ばせる。

「ふむ。それじゃあなんだろうか?蓮。お前、どこで生まれた?」

「ん?あぁ、細かいところは覚えていないが、確か東北だったはずだ」

「ふむ。……東北。東北か」

 弘樹先輩は顎に手をやり、一人考え込む。

 こうなってしまえば、弘樹先輩は他の人の言葉に反応しなくなる。

「ふむ。では」

 今回は結構早く考えがまとまったのか、すぐに話し始める。

「一度東北の方に行ってみようか」

「え?」

 東北の方に行ってみようと告げる弘樹先輩に私は驚きの声を上げる。

 ここは千葉だ。

 東北に行くのにかなりの時間がかかる。

 そもそもどうやって東北なんかに?

「別にいいだろう。車の免許なら部長が持っているしな」

「え?そうなの?」

「まぁ、そうね。まだとったばかりだけどね。一応私は18歳にはなっているわけだしね」

 18歳になってすぐに車の免許を取る人なんているのね。

「部長!すごい!」

「じゃあ、部長にお世話になるっていうことでいいかな?」

「えぇ。それじゃあ今週の日曜日に行くっていいかしら?」

 部長の提案に、全員が賛成する。

「じゃあ、結構時間も遅くなってしまったし、もう今日はもうお開きにしましょうかしら?」

「だな」

「賛成!」

「僕はどちらでも」

「じゃあ、お開きにしましょうか」

「だな」

 全員が席を立ち、帰りの支度を始める。

「では、お先に失礼する」

 真っ先に支度を終わらせた弘樹先輩が部室から出ていく。

「あー!待ってよぉー!」

 その後をひな先輩が追いかけていく。

「ふふふ、じゃあ私達も帰りましょうか」

「えぇ」

 そして、私達3人も部室から出た。


「あ、小蝿だ」

 パチン

 部室に一人寂しく残された花子が部室を飛んでいた小蝿を叩き潰した。


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