第11話
「……っ!なんだこれ。美味しい」
蓮がケバブを口に含み、驚愕に目を見開く。
「それはケバブって言うのよ。中東とその周辺地域で供される、肉・魚・野菜などをローストして調理する料理の総称を言うわね」
「へぇー。なるほど。中東。……オスマン帝国のか」
オスマン帝国。……中東と言われぱっとオスマン帝国の名が上がることに若干の時代の齟齬を感じるわね。
「それにしても、時代ってすぐに変わるんだね。僕が生まれた時期もだいぶ色々なことがあって色々と変化したけど、戦後もかなり激しく変わったんだね」
「あら?蓮は変わってきた時代も生きているのじゃないかしら?」
「ん?あぁ。色々あってね」
色々……。
聞かないようにしておこうかしら。
本当に洒落にならない色々がありそうだから。
「じゃあ、今日はいろんなものも見て回ろうかしら?」
「お?じゃあよろしくね」
「とりあえずは最初の目的である服ね」
「うん」
私と蓮は今、蓮の私服を買いに来ているのである。
蓮は学校の制服の他にちゃんとした服を持っていないらしい。
蓮がもともと持っていた服は和服と軍服、ボロ雑巾みたいな粗末な服しか持ち合わせていなかった。
そういえば、蓮が私の前で落下死したときの服も和服だったわよね。
さすがにそんな格好で出かけるわけにも行かなかったので、洋服を買いに来たのだ。
今の蓮のように制服で行くという手もあるけど、制服だとちょっと……。
「すごいな。ここが今の服屋か。すごいな……」
ショッピングモールの服屋の前に来た蓮が驚きに目を見張る。
「じゃあ、ちゃっちゃと選んでしまいましょう」
子供用の服が置いてあるところに向かい、服を選んでいく。
「じゃあ、これらを試着して」
「え?これ全部?」
「えぇそうよ。当たり前じゃない」
私が渡した服を見てげんなりとした表情を浮かべた蓮がおとなしく試着室に入り、どんどん服を着替えていく。
やっぱ私と違ってもとの見た目がいいから何を着ても似合うわね。
ほんと、見た目がいいって得よね。
「はい、じゃあ次はこれね」
私は蓮が着替えていた間に選んでおいた服を蓮に渡す。
「え?」
「え?じゃないわよ。どんどんいくわよ」
「ほ、ほんとに?」
「えぇ。私は本当よ」
「えぇー」
蓮はおとなしく私が選んだ服を受け取り、試着室に戻った。
うんうん。やっぱどの服も似合っているわ。
「ねぇ、蓮。こんなのもどうかしら?」
「え?」
蓮が私が見せた服を見て愕然とした表情を浮かべる。
当然の反応だろう。
だって、私が見せた服は女の子用だったのだから。
「そ、それは、流石に……」
「お金。私が出すよ」
「え?」
「お金、ないんでしょ?服のお金もこのあとの食事代とか諸々全部出してあげるわ」
「え?」
なぜかは話してくれないからわからないのだけど、蓮はお金を持っていなかった。
蓮が毎日死ぬ理由に食費がないので、一回死んでリセットすることによって何も食べなくていいようにするという意味もあるらしい。
毎日毎日数多の自販機の小銭を集めているらしい。
「……わかった」
蓮は私の手から服を奪い、試着室に入る。
「ど、どう?」
「おっふ」
初めて着る女の子用の服を着るのに多少戸惑ったのか、少し時間がかかったが無事に着ることができたようだ。
そしてその姿は可憐の一言だった。
私の乏しい語彙力では蓮の可憐さを表現することができないだろう。
「わぁー」
たまたま近くを通った店員さんも蓮の姿を見て感嘆の声を上げる。
「きれいな人ですね!こんな服がおすすめなんですけど」
「え?あ、いや僕は」
「いいわね。それ」
店員さんは蓮に様々なかわいい服を進めていった。
私は少しコミュ障なので店員さんに何も言えず、蓮もお金の件があり拒否できなかった。
その結果、長い間ずっと蓮が店員さんの言われるがままに着替えさせられていった。
予想以上に時間がかかってしまったが、いいものが見れたので良しとしようかしら。
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