第16話
「やはり自然は素晴らしい」
私達が白神山地を散策していたころ弘樹先輩が悟りを開いたかのような表情で話し始める。
「やはり、人間が自然を伐採して作り、地球を汚染するような機械は使うべきじゃないと思うんだ」
弘樹先輩の表情はさっきまでの真っ青な表情とは打って変わり、健康的な表情だ。
自然の澄んだ空気に触れ、酔いが収まったらしい。
だが、何かがおかしかった。
普段自然など価値がなく、地球温暖化など人類の技術の発展が唯一の解決策であると主張し、すべての自然の伐採と食料として利用できる動物以外のすべてを殺すべきだと話す血も涙もない男の発言だとは思えなかった。
「ほら。感じる。自然の雄大さを。自然の優しさを。これらに触れればあんなもの使うべきではないと。容易く理解できるだろう」
あぁ、壊れてしまったわ。
「あぁ、耳を澄ませ。五間全てで感じ取るのだ」
弘樹先輩が両腕を広げ、叫ぶ。
天までとどけと。
「あぁ、ほら。聞こえる。ガイアの囁きが。あぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!感じる!感じるぞ!ふわぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!今!俺はガイアと繋がっている!」
いつも誰にも本心を語らず、一人思案に耽るクールで孤高な少年はそこになく、ただただ謎にキマってしまったやばい子がいた。
「落ち着いて!」
「あいた!」
狂乱に飲まれた弘樹先輩をひな先輩が思いっきり叩く。
「落ち着いた?」
「……落ち着いた」
「もう!まったく!いつも車乗った後ああなるんだから!」
「仕方ない」
「そ、そっか。じゃあと、とりあえず散策を続けようか」
部長が少し引きつった笑みを浮かべて、先に進むように促す。
「そうだな」
弘樹先輩は何事もなかったかのようにあとについていく。
え?何もなかったことにするの?
あの痴態は?気にしないの?
……やっぱどこかおかしいわね。
私達はその後も白神山地での散策を続けた。
部長とひな先輩と蓮が楽しそうに談笑し、弘樹先輩がいろんな植物とかを見て回っている。
「あ!ねぇ玲香!見て見て!」
蓮が満面の笑顔を浮かべながら後ろを歩いていた私の方に振り返り、とある植物を指差す。
「ふふふ。……何かしら?そんなに面白いものでもあったのかしら?」
私はそんな蓮に対し、いつもの嫌になる一切笑顔を浮かべず、ぶっきらぼうでつまらない冷たい言葉を返した。
なんで私はこんなんなのだろうか。
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