第33話
《では、戻るとしようか》
「はい。私の、私の自慢の王よ」
蓮が今度こそ術を発動させる。
今度こそ景色が変わり、場所は自然の大地から人工物へと。
目の前には縄文杉や神馬ではなく、一生懸命墨をすっている加恋とひながいる。
「進んでる?」
「うん!完璧だよ!」
「……するのに時間がかかる以外は問題ないわね」
「なら、なんの問題もないね」
神の威圧を霧散させた蓮は加恋のささやかな嫌味を蓮はサラリと受け流す。
部長とひな先輩がすっている墨も普通のものじゃない。
人間がするには少し時間がかかるだろう。
「ベル手伝ってやれ。俺は筆を作っている」
蓮は先程とってきた毛を手に持ち、席につく。
「承知いたしました」
ベルゼブブは加恋とひなの隣に座り、二人の倍以上の速度で墨をすっていく。
加恋はベルゼブブの速度に驚きながら、ひなの少し悲しげな表情を見て心を痛める。
加恋は弘樹と話したひなについての会話を思い出した。
■■■■■
道がわからなくて迷子になってたのだが、弘樹くんと蓮くんのおかげでなんとか元の正しい道に戻ってくることができた。
そんな私が運転する車が高速道路を走っている途中、蓮くんがトイレに行きたいと話し、パーキングエリアに止まる。
「玲香。君も」
蓮くんは玲香ちゃんもつれて車から降りる。
「おい……ひな」
「何!」
「お前も降りろ」
「え!なんで?私は別にトイレなんかに行きたくないよ!」
「降りろ」
「いや、だから、その」
「降りろ」
「……はい!」
ひなちゃんも、弘樹くんの圧に負けて車から降りる。
可哀相に。
……って、あれ?もしかして。
「気、使わせちゃったかしら?」
「だろうな。わかり易すぎるからな」
「そ、そうね」
「で、なんだ?」
「あ、えっと、そのね」
私はなんて話したらいいかわからず悩むも答えは出ない。
「お前が悩んだところで無駄だ。お前は馬鹿だからな。お前は何も考えず素直に話せ。何言われれも俺は気にせん」
ひどい!馬鹿って!
実際に悩んでもでなかったのだけども。
お言葉に甘えさせてもらおう。
「私、聞いてしまったのよ。ひなちゃんの寝言を。やけにはっきりとしていて寝言だとは思えなかっただけど、ひなちゃんは確かに『私は家族を生き返らせる。そのために蓮を利用するって』これについて弘樹くんならなにか知っているんじゃないかって」
「あぁ、知ってるな」
「ほんと!?」
やっぱり弘樹くんは知っていたのね。
「もし利用するなら、蓮くんの不老不死は……」
「あぁ。蓮の目的は阻止しなくてはな」
「それは!」
正直に言って不老不死じゃなくなりたい蓮くんの願いを踏みにじり、自分の願いを押し通すのは良くないことだと思うわ。
見ていてあまりいい気分はしないわ。
「あー。どこまで話すか。いや、お前なら余計なことは周りに言わねぇか」
「えぇ。話してくれるのならば決して周りには言いふらさないと誓うわ」
弘樹くんの信頼を裏切るわけにもいかないし、他人の秘密ごとを他の人に教えるなんて言語道断だわ!
「えっとだな。ひなは落ちこぼれだったんだよ。そして双子の兄に優秀なやつがいたんだよ。それで小さい頃からひなは親から構ってもらえず、いないモノ扱いさせていたんだよ」
「そんな……ひどい」
「それで、だ。小学生のときくらいのとき事故にあったんだよ。そのときにひなとひなの兄が一緒にいたんだが、ひなは生き残り、ひなの兄は死んでしまったんだよ。それで、散々親に何でお前が生き残こったのだ。お前が死ねばよかったのにってことを言われまくって、鬱みたいになってな。それで、結局両親はひなを残して海外に移住。つまり捨てられたんだわ」
「そんな……」
ひなちゃんの境遇のひどさに言葉が出ない。
「それでひなはひなの兄を生き返らせれば両親が自分のもとに戻ってきてくれると信じているんだわ。だから死者蘇生の方法を本気で探しているってわけ」
「……そんなことが」
何も知らず、ひなちゃんのことを心のなかで非難していた自分を恥じた。
「まぁ、無駄だけどな」
「え?」
吐き捨てるようにつぶやいて弘樹くんの一言を聞いて固まる。
「兄を生き返らせても両親がひなを褒めることはないだろう。兄を生き返らせたところでひなに待っているのは前のように両親にいないもの扱いされる生活だ」
「……そっか。そうなっちゃう、よね」
「そういうことだ」
なんてひどい話なの。
「というか、そもそもの話。ひなが兄を生き返らせたところで両親がひなのもとに戻ってくる可能性は少ないだろう」
「え?」
「あいつらはもうすでに海外で子供を作って三人幸せに暮らしてんだよ。だからこっちに戻ってくる可能性は限りなく低いだろうな」
「え!?」
そんな!そんなことって!
「だから俺の家で暮らしておいたほうがいいんだよ。あいつらと暮らすより俺と一緒に暮らしたほうがいいだよ」
「あら?二人は一緒に暮らしているの?」
「あぁ。捨てられたひなを拾ったのが俺だからな。俺は天才だ。別にひなを養うことくらい容易い。まぁ俺がいなくても俺の両親もそこそこ優秀だからひなを育てることくらい容易いだろう」
「そうなのね」
良かったわ。
ひなちゃんの居場所があって。
それにしても自分で自分のことを天才って言うのすごいわね。まぁ株とかで預金通帳の0を増やしたり、何ヶ国語も離せたりするから天才なのは間違いじゃないと思うけどね。
「だから、死者蘇生の方法なんてひなに見つけられても困るんだよ。ひなが望んでいるから俺も手伝っているんだけどな。これもどうせ見つからんと思っていたからなんだが、蓮らに関わっていると本当に死者蘇生にたどり着いてしまいそうで怖いんだよ。だからさっさと蓮には不老不死じゃなくなってもらうことを願うよ」
「そうなんだ。それにしても少し意外ね。弘樹くんがそんなにひなちゃんのことを思っているなんてね」
「ふん!ただのひまつぶしだ。それにひなには借りがあるからな」
「ふふふ、そうなのね」
なんだが、照れ隠しのように話す弘樹くんに少し笑ってしまう。
でも、言葉には一切照れの感情を感じられないし、本心から思っているのかもしれないわね。
「ひなには特別なあれがあるからな」
「特別なあれ?」
「これはお前へのヒントだよ。考えろ。俺がひなを助ける理由を。俺はなんの理由もなしに人を助けたりなんかしない」
「そ、そう」
はっきりと話す弘樹くんに若干私は引く。
それにしてもそれはなにかしら?
弘樹くんのことだから自分の手が届かないものを求めそうではあるけど、それを求めるなら蓮くんじゃだめなのかしら?
蓮くんという存在を超えるほどのものなのだろうか。ひなちゃんのあれとは。
うーん。
私なんかじゃわからない。
そもそもヒントと言われても弘樹くんの本心を聞いたのなんか今が始めて。tp区別なあれがあるくらいしかわからないのだ。
わかるはずもない。
私が頭を悩ませていると、蓮くんたちが車に戻ってくる。
「ねぇ、なんのためにトイレに行ったのかしら?蓮もトイレに行かないでコーヒー飲んでいただけじゃない」
「いや、あんな自販機を見るのが初めてでテンションが上がっちゃって。高速道路ってすごいんだね」
蓮くんと玲香ちゃんが仲よさげにお喋りしながら車に乗り込み、
「ほら!ひろくん!」
ひなちゃんは車に乗るとともに弘樹くんのもとに駆け寄り、膝枕してあげる。
仲いいわね。
見ていてとっても微笑ましいわ。
「あぁ、ありがとう。……ふっ」
「あれ!?いきなり笑ってどうしたの?」
「いや、なんでもねぇから気にすんな」
弘樹くんが手を伸ばし、ひなちゃんの頬を撫でる。
……本当に仲がいいわね。
これで二人が付き合っていないというのだから驚きだわ。
早く付き合えばいいのに。
いや、弘樹くんからしてみればひなちゃんはただのコマなのかもしれないけど。
そう考えるとやっぱりひどいわね。
ひなちゃんの弘樹くんを思う気持ちを軽んじているとしか思えないわ。
「じゃあ、行くわよ」
私は内心そんなことを思いながら、車を出発させた。
俺はお前を一生愛し、一生守ると誓おう。
俺はお前を、ひなを心の底から愛している。
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