第34話
「はい、終わり」
加恋が弘樹との会話を思い出している間に神札が完成する。
あれれ?まだ私墨をすっていたはずではなかったかしら?と加恋は内心戸惑うも決して表には出さない。
それが正解だろう。
なぜなら、ただ単に加恋が過去に思いを馳せるのに夢中になって我を忘れていただけなのだから。
しかもちゃんと加恋は蓮の言うことを聞いて、忠実に行動しているのだ。
ここで加恋が慌てていたらなんだこいつという目で見られること間違いなしである。
「じゃあ、学校の屋上に向かおうか」
蓮たちはすでに神棚を作り終えた玲香たちが待っている屋上に向かった。
■■■■■
私達が作った神棚の前で蓮が祈りを捧げている。
正直何をしているのか私にはわからないが、多分必要なことなのだろう。
どれほど時間が経っただろうか。
かなり時間が経ったのかもしれないし、もしかしたらさほど時間は経っていないかもしれない。
時間の感覚がわからなくなっていた。
ぞわり
どうしようもないほどの寒気に襲われ、体が硬直する。
目を背けたいのに背けられない。
そんな感覚が私達を襲う。
そんな状態をしばらく。
私の体を縛っていた寒気が消失し、体から力が抜ける。
そしてそのまま崩れ落ち、へたり込む。
「ふぅー」
蓮が息を吐き、祈りの態勢を崩す。
「お、終わったのかしら?」
「どうだろ?あの状態にはなれなくなっているけど」
蓮は首をかしげる。
「確かに神の気配はなくなっていますね」
「まぁ、だからといって不老不死がとけているかどうかまでわからないけどね。よっと」
蓮はひょいと立ち上がる。
そして、そのまま走り出し屋上のフェンスを飛び越える。
「何を?」
「ふっ」
蓮は小さく笑うと、ゆっくりと体を傾ける。
「ちょ!」
落ちる!
私がそう思い大声を上げたその瞬間に蓮はギリギリのところでフェンスを掴み、止まる。
「アッハハハハハハハ!」
蓮は狂ったように笑い続ける。
「れ、蓮?」
「アッハハハハハハハ!」
蓮一人狂ったように笑う。
「ふー、怖ーい」
散々笑った後一度息を深く吐き、体を少し震わせながらつぶやく。
「これが恐怖!あぁ!一体いつぶりだろうか!本能が終わりを前にして恐怖しているよ!」
蓮が今までにないくらい清々しい笑顔を浮かべて笑う。
空に堕ちゆく夕日が蓮の笑顔を美しく飾る。
「そう。良かったわね」
私は吹き荒れる内心を押さえつけながら答える。
声。震えていなかっただろうか。
素直に祝福できただろうか。
「やった……!やったよ……!」
蓮がこれまでになくらい喜びを顕にする。
「良かったわね……」
「上手く行ってよかった」
「……だね」
オカルト部の面々は蓮を素直に祝福する。
……私を除いて。
私は……。
暗くなりゆく空が私の未来を暗に示しているような気がして、空を見上げるのが怖かった。
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