第19話


「はぁー」

 僕はさっきから頭に響いてくる言葉を聞き流しながらため息をつく。

 一切身構えていなかったせいで、普通に食らってしまった。

 人ならざるものの幻術に。

 まったくもって情けない。

 幻術に一切反論できないではないか。

 

 あなたは何も変わってない。あなたは弱いまま。あなたは何も守れない。ずっと一人。未来永劫このままあなたは一人孤独に生き続ける。


「ふぅー。別にそんな当たり前のことを言われてもなぁ」


 あなたは未来に向き合っていない。向き合おうてしていない。逃げて逃げて逃げて逃げて逃げてここまでやってきた。来てしまった。もう取り返しがつかない。あなたはもう一生変われない。


「生まれたばかりの存在が使う手として精神攻撃は有効だが、それは同格の相手もしくは人間くらいにしか効かないぞ。勝負を挑む相手は選んだほうがいい」

 僕は自身の力を高めていく。

 空間に僕の力が充満していき、世界が歪んでいく。

「壊れろ」


 ピシリッ


 歪んだ世界に世界に亀裂が入る。

「あと、僕だってちゃんと変われてるよ。玲香と会ってね」

 そして、亀裂が広がっていき、

 

 パリン

 

 世界が割れ、崩壊する。

「ふぅ。はぁー。面倒」

 僕は倒れていた体を起こし、僕の周りで倒れているみんなを見てため息をついた。

 

 ■■■■■

  

「あら?みんなはどこかしら」

 私は突然みんながいなくなってしまったことに首をかしげる。

「まったくもう!みんなすぐにどっか言ってしまうのだから。好奇心が強いのはいいことだけど困ったものね」

 私はみんなを探すためにここらへんを歩き回る。

「……あら?ここはどこかしら」

 しばらくぶらぶらと歩いていたときふと気づく。

 私は今どこを歩いているのだろう。

 どこに向かって歩いていけばみんなと会えるのだろうか。

「……もしかしてやばいのかしら?」

 よく考えてみればさっきも迷子になっていたのだ。

 そこからさらに進んだりなんてしたら、迷子加速するだけで終わるのではないか。

 しかもみんなと迷子じゃなくて一人で迷子。

 ……本格的に大変な事態になっているのでは?

「あわわわわわわわわわわわわ!……はっ!歩いて生きた道を引き返していけば……!」

 私はふとそう思い出す。

 元々いた場所にいれば弘樹くんがなんとかしてくれるはず。

 だって弘樹くんは頭がいいのだから!

「あれ?」

 そう思い、後ろに振り返ったところでふと思い出す。

「どうきたかしら?」

 今まで何も考えずに歩き回ってきたから自分がどの道を通ってここまで来たのかわからなかったのだ。

「こっちかしら?いや、それともこっち?」

 辺りを見渡し自分がどこから来たのかと考えるが、普通にわからない。

 どうしましょうか。

「いや、なんとかなるでしょうか」

 為せば成るとも言うし、とりあえず行動してみましょう。

 案外帰れるかもしれません。

 周りの大人たちも迷ったら行動してみるべきだ!って言ってるわよね。

 うん。

 私はそのまま真っすぐ歩きだした。

 進んでいた向きと反対側歩けばたどり着けるわよね。

 

 く、この娘!闇も悩みも一切ない!純粋!気楽に生きてる能天気やろうじゃないか!

 

 私が歩き出したところで声が聞こえてくる。

「誰よ?私に話しかけているのは」

 辺りをキョロキョロと見渡すもそれらしき人影はない。

「あら?空耳だったかしら?」

 確かに聞こえたと思ったのだけども。

 それに声も少し私に似ていたような。

「それにしても」

 さっきの謎の声の発言。

 少々許せないものもあるわね。

「悩みも一切ないとか能天気だとか、それじゃあ私が何も悩まないで生きているバカみたいになってしまうではないの」

 

 いや、別に悩みがない=バカではないと思うのだが。それに悩みなど感じられなかったぞ。


「え?誰!?」

 また聞こえた。

 やっぱりはっきりと。

 空耳じゃなかったのね。

 いや、そんなことよりも。

「悩みくらい私にもあるわ!」

 

 何だ?では、お前の悩みとは何だというのだ!


「そうね」

 悩み……悩みね。

 ……あぁ!

「弘樹くんが優秀すぎて私の影が薄くなっていないか心配だわ」

 

 しょぼい!非常にしょぼい!あと、影は濃い。海外関連のオカルトになったときのテンションとかキモいの一言でしかない!

 

 「しょぼい!?人様の悩みに対してなんてひどいことを言うのよ!あと、私はキモくないわ!」

 まったく。

 誰かはわからないけど失礼な声ね。まったく。

 

 自覚なし。もはや末期だな。いや、その悩みはしょぼいだろう。他になにかないのか?


「そうね。……あぁ。今日の夕飯が何かが心配ね。私の嫌いな食べ物じゃないといいのだけれど」

 

 軽い!すごく軽い!


「軽いとは何よ!夕飯は人生の中でも一位二位を争うほど大切よ!」

 

 確かに夕飯は大切だが、それを悩みにするとしょぼい!たとえ嫌いなものであっても作ってくれる人がいるだけで感謝するべきことよ!あぁ!もうダメだ!この娘は。


「だめとは何よ!だめとは!」

 私がぷんすかと怒っていると、


 ピシリッ

 

 目の前に謎の亀裂が走る。


「え?なにこれ」

 私が手を伸ばし亀裂に触れると、


 パリン!

 

 一気に亀裂が広がっていき、目の前の景色が割れた。

 視界は暗転し、再び目を覚ますと土と草がまず目に入る。

 どうやら私は寝転んでいるようだ。

 なんで私は地面なんかに寝転んでいるのかしら。

「うんしょ」

 私は体をゆっくりと起こす。

「あ、起きた?」

 周りを見渡すと弘樹くん、ひなちゃん、玲香ちゃんが寝転んでいて、蓮くんが玲香ちゃんを膝枕してあげていて、頭に手をかざしていた。

「あ」

 どうやらみんなのいたところに戻ってこれたようね。

 やっぱり為せば成るものね。


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