第20話


 お前は守れなかった。何もできなかった。見ていることしかできなかった。お前に生きる価値などない。

 

 ふむ?俺が一人考え込んでいるとわけの分からぬ声が聞こえてくることに気づく。

 普段考え事をしているときは他人の声を聞かないようにしているのだが。

 僕は心を入れ替える。

 

 お前がしようとしていることは死者への冒涜だ。お前のしていることに何の意味もない。

 

「人間のすることに意味などを考えても意味がないだろうに」

 周りに人はだれもいない。

 というか。そもそも声の聞こえ方に違和感を感じる。

 耳で言葉を聞いていない、認識していないといった感じか。

 頭に直接語りかけているといった感じか。

 念話やテレパシー。

 そういった類の尋常でない力が働いているということか。

「くくく」

 あぁ、いいじゃないか。

 これこそ僕が望んだものの一つだ。

 ここに立っていれば妖怪に会えるのだろうか?

 いや、そもそもこれは妖怪の仕業なのか?

 もっと別の存在の仕業だったり?


 お前は何も成し遂げられない。お前は大切な人を守れない。お前はひなを守れない。守る気すらないのだろう。狂人が。

 

「くくく」

 興味深い。実に興味深い。

 最高じゃないか。

 蓮。君はやはり素晴らしい。

 

 お前が極められることはない。お前が真理に辿り着くことはない。お前に理解できる日は来ない。

 

「くくく、何か勘違いしていないやしないか。別に俺は真理に辿り着こうなどと考えていない。ましてや死者蘇生など。ただ、俺は自分が極められない未知のモノに惹かれれているだけ。むしろ、極められてしまったら興ざめだ。ひなはたしかに大切な存在だが、いなくなったらいなくなったで別に構わない。そうだ。お前の言う通り守る気すら起きんよ」

 心を読んでいるのかと思っていたが、どうやら違うらしい。記憶を覗いているのか?

 いや。

 今はとりあえず向こうに戻りたいな。

 蓮ならば何かわかるだろう。

 俺じゃまだこの段階では何もわからない。

 ……精神関連ならば心を閉ざしてしまえば終わるか?

 俺は入れ替えたばかりである自身の心を閉ざす。


 次に心を開けると僕の視界に土と草が写った。

 体が倒れていたので起き上がり、周りを見渡す。

 蓮が玲香のことを膝枕してあげていて、ひなは部長に膝枕してもらっているとかいうこともなく地べたに寝転んでいる。

 そして、部長はひなの隣でぼーっと立っている。

 ……一体何を?

 部長の行動の理由が理解できず疑問に思うも、まぁ部長だからそういうこともあるか。

 と納得する。

 あの部長は多分何もしないだろうから無視でいいだろう。

「ふぅー」

 今回のはひなにとってきついものになってそうだ。

 俺はひなの方に歩き出した。

 約束だからな。

 

 ■■■■■

 

「嫌!嫌!嫌ぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!」

 

 お前は誰からも必要とされていない。お前が生きていることを望むものはいない。お前が生きてる価値なんてない。


 私はさっきから頭の中に響いてくる声から逃げるため半狂乱になりながら頭を振る。

 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで

 消えない。消えてくれないの。

 なんでそんな事言うの。

 

 お前なんか生まれてこなければよかった。お前なんかに何ができるんだ。お前が変わりに死ねばよかったのに。

 

 助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて

 嘘つき。ひろくんの嘘つき。助けてくれるって言ったのに。一人にしないって言ったのに。

 なんでいないの。

 誰か。誰か。誰かいないのぉ!誰かぁ。

 

 お前に何ができる。お前に何の才能がある。穀潰し。恥晒し。お前なんか……。お前なんか……。お前なんか……。


 嫌だよぉ。嫌だよぉ。

 一人は嫌だぁ。

 私を一人にしないで。

 

 お前には何もできない。何も達成することなんかできやしない。できないからこそお前は捨てられたのだ。

 

 あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!違う違う違う違う違う違う 違う違う違う違う違う違う違う違う違う 違う違う違う違う違う違う違う違う違う 違う違う違う違う違う違う違う違う違う 違う違う違う違う違う違う違う違う違う 違う違う違う違う違う違う違う違う違う 違う違う違う違う違う違う違う違う違う 違う違う違う違う違う違う違う違う違う 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!

  

『俺は嘘をつかない。俺はお前を一人にしない。俺はお前を守る』

 

 あ……ひろくん。

 私は安心感で気が抜け、意識が落ちてしまった。

 

 ■■■■■

 

「ど、どういうことかしら?」

 私があたりをキョロキョロと見渡すも、誰の姿も見ることができない。

 

 お前は生まれてきちゃいけない人間だった。


「え?な、何よ?」

 いきなり聞こえてきた言葉に驚き、再度あたりを見渡すも誰の姿も確認することができなかった。

 ならばさっきの声は一体なにかしら?


 お前は血に飢えてる。お前は人を殺すことを強く望んでいる。快楽に飲まれている。お前は多くの動物を殺した。お前は蓮を殺した。

 

 誰もその場にいないのにも関わらず声だけはやけに頭に響いてくる。

 ……姿なき声が私の心を震わせた。

 

 そんなお前になんの価値があろうか。お前はいつまでのうのうと生きているつもりだ。人殺しの分際で。どうせ誰にも認められやしないというのに。

 

 ……

 

 蓮は変化を望んでいる。蓮は普通を望んでいる。蓮は普通を手に入れるために行動している。蓮は変われた。わかるだろう?お前はずっと目で追っているのだから。

 

 ……

 

 だが、お前は何もしていない。現実から目を背けているだけ。何も変わっちゃいない。 変わろうとすらしない。

 

 ……

 

 どうするつもりだ?蓮が不老不死じゃなくなったその時。己はどうする?蓮を殺し、なんの罪もない人々を殺すか?

 

 ……っ

 

 お前なんて死んだほうがいい。死ぬべきだ。死ななければならない。なのに死ねない。その勇気すらもない。自分は他を殺しておいて、自分を殺すことができない。どうしようもない意気地なし。

 

 ……あなたに私の何が……。

 変われない。

 変われるはずがない。

 人殺しの怪物がなにをどう変わると言うのだ。

 どう変われる。

 どう変わればいい?

 何をしたら許される?

 いや、私が許されることはない。

 だって私はなんの罪もない多くの命をなんの意味もなく奪ったのだから。

 

 蓮は変わりゆき、お前は変われない。何もできない。問題にすら向き合わずただ逃げるだけ。

 

 私はどうすればいいというのだ。

 蓮に変わるなと私のわがままを押し通せとでも言うのか。

 どうすればいいのだ。

 教えてよ。

 

 お前は一人。一人ぼっち。


 誰にも言えない。誰にも認められない。誰も私を見てくれない。

 私なんか……。

 

『さっさと起きろ!』

 

 最も安らぐ声が私を包み、

 そして強い衝撃が私を襲った。 


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