第21話
「痛った!」
私は頭に走った強い衝撃で目を覚ます。
「あ、起きた?」
「わっ!」
視界が暗転したと思ったら一気に視界がひらける。
一斉に飛び込んできた光に目が痛くなる。
霞む視界の中で見えたのはすべてを見透かしてきそうな深い闇を持った紫色の瞳だった。
「人の顔を見て、驚くのは失礼じゃない?」
「想像してみて。目を覚ましたとき私の顔がドアップで視界いっぱいに広がったらどうするかしら?」
「ふむ。悲鳴をあげる」
蓮は一切悩む素振りも見せずはっきりと断言する。
「膝枕までさせてあげている女の子に対してそれはひどくないかしら?」
一応蓮に文句を言っておく。
というか、頭の下の感触が本当に心地いいのだけけども。柔らかくて。
普通膝枕よりも市販で売っている枕のほうが柔らかく寝心地がいいと思うのだが、蓮の膝枕のほうが柔らかくて寝心地が良い。
どうなっているのかしら?
女の子の膝なんかよりもずっとキレイでずべずべで柔らかい。
これが元大日本帝国軍人の膝なのか……!
「僕だって嫌だったさ。玲香に膝枕をしてあげるとか。でもああしないと玲香を元に戻せないのだから。仕方なくだよ」
「はぁはぁ」
蓮は心底嫌そうな顔を作る。
……蓮の首元にナイフを突き出したらどれほどの血を浴びられるだろうか。
「重いんだ。早くどいてくれない?」
「……そうね」
私は少し名残惜しかったが、離れた。
蓮に迷惑をかけるわけにはいかない。
「……ねぇ。ひな先輩を起こさないのかしら?」
私は私達のところから少し離れたところで集まっている弘樹先輩たちの方を見る。
弘樹先輩がひな先輩に膝枕してあげていて、耳元で何か囁いているように見える。
そのそばでぼーっと部長が立っている。
……部長は何をしているのかしら?
「ん?あれは僕の仕事じゃない。弘樹先輩の仕事だ」
「あら?蓮が何かしなくても解除できるのかしら?」
「あぁ。僕のように強引に解除する方法もあるけど、ああやって言葉を投げかけ続けてもなんとかできる」
「あら?そうなの?」
「うん。まぁ、所詮今回の相手はさほど強くない相手だからね」
「はぁはぁ。……ふーん。そういうものなのね」
「まぁね。で?今3人のことを気にしている場合じゃないんじゃない?」
「……ッ!」
一瞬。
私の心臓が止まったかと思った。
「まぁ、わかるわよね」
「当然。どんなにばれないようにしようと頑張っても、結局息荒いからね。っと!」
蓮は強引に私の服の裾を掴み、奥へと連れ込む。
「ここなら3人には見られないよね。ふふふ、さぁ、いいよ?殺して」
蓮はいつもの友達に向ける笑顔や、初めて私に殺すように頼んだときのような満面の笑みではなく、どこか儚げな笑みを浮かべていた。
声にも感情がこもっていない。
こっちこそが蓮の素。
いつも人に見せる表情はすべて作り物。
素の表情を見せるのは私くらいだろう。
素の蓮が笑うことはほとんどなく、表情が変わることも基本ない。
どこか儚げで、いつしかふとした時に消えてしまうんじゃないかという怖さすら感じる。
「じゃあ、遠慮なく」
私は胸元からナイフを取り出す。
「いつも思ってるんだけど、すごいところから出すよね。それ」
「あら?悪いかしら?」
「いや、全然。胸が大きい外人さんの女スパイとかだと胸元になにか隠していた人もいるしね」
「へぇー、そうなのね」
私はただ単に胸の谷間まで警察が調べるなんてことはないだろうと思って胸元に隠しているのだけど、本当に昔の人も胸元に小道具をしまっていたのね。
面白いわね。
「はぁー」
私の口から色っぽいため息が出たのを自覚する。
「もう我慢できないわ」
「ふふふ、我慢なんかしなくていい。君の欲望すべてを僕に吐き出していんだよ?」
私は蓮の首元にナイフを突き出した。
蓮の首元から吹き出した血が私の体を染め上げる。
あぁ!
抗いようのない快楽の波に飲まれ、多幸感が私の体を脳を心を貫く。
「ふふふ、すっごい気持ちよさそうな顔」
「くっ……。あまり見ないで」
私は顔を背ける。
「じゃあいつものやるね」
蓮の手が私の体に触れる。
私の体が淡い光に包まれ、汚れきった私の体をキレイにしていく。
「うん。これで大丈夫」
光が消える頃には私にべっとりとついていた返り血も綺麗サッパリなくなっていた。
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