第2話

「こっちよ」

 私はこの学校に来たばかりでまだよく学校のことがわかっていないだろう佐藤蓮の代わりに人気の少ない場所まで佐藤蓮を案内する。

「ここなら誰もいないはず。それで。なんで?佐藤蓮。何故あなたがここにいるの?あなたは昨日……」

「ふふふ」

 私の疑問に対し、佐藤蓮は楽しそうに笑う。

「昨日、君のあとをつけていたんだ。ふふふ、ストーカーみたいにね」

「は?」

 佐藤蓮は私の予想とは大きく違う答えを返す。なんでいきなりストーカー宣言を?私が聞きたいのは……。

「そしたら、面白い物が見えたよ」

「ッ!」

 私は佐藤蓮の言葉を聞いて体がこわばるのを感じた。

 そう、いう、こと!?

「まさか、人畜無害そうな君がかわいいかわいい子犬さんを惨殺しているなんて、ね」

「〜〜ッ!」

「ふふふ」

 佐藤蓮は心底楽しそうに笑い、その雪のように白く華奢な手を私に向かってのばす。

「な、何よ」

 私の体がビクンと震える。

 佐藤蓮の手が私の両手を掴んだからだ。

 そして佐藤蓮は私の両手を動かし自分自身の首に持ってくる。

 佐藤蓮の首は真っ白で細かった。とても、それが生きている人間のものには見えない。

 しかし、触るとそれでも確かな体温を感じるとることができた。

 この子が生きているのだと、私に感じさせた。

「ねぇ」

「な、何?」

「殺していいよ、僕のこと」

 佐藤蓮は私の耳に顔を近づけ、魅惑的な声で告げる。

 それも満面の笑みを浮かべながら。

「は、はぁ?」

「僕は死んでも生き返る。なんどでも生き返る。だから、僕を殺しても何の問題もない」

 佐藤蓮の首に視線を落とし、ゴクリとつばを飲む。

 いけないことだ。人を殺すなど。してはいけないのだ。

 でも、でも、でも。

 それでも私は、彼の言葉に抗うことができなかった。


 べきべきべき……ゴキ


「ハァハァハァハァ」

 佐藤蓮の体から力が抜けていき、ドサリと倒れる。

 やった。……やってしまった。

 自己嫌悪に苛まれる。私は、なんてことを……。

 だが、だが、頭でいくら後悔しようとも、火照る体と全身を貫くような快感が私の本能に刻み込まれ、離れてくれない。

 今までとは格別の快感。私の中の飢えが満たされていくのを感じる。

 そんな我が身がひどく恨めしかった。

「びっくりしたよ。あまりにあっさりと折るもんだから。力強いんだね」

「へ?」

 ついさっき確実に殺したはずの佐藤蓮が何事もなかったかのように立ち上がった。

 え?

 それにほんとついさっきまで佐藤蓮の首に残っていた私の手形もなくなっている。

 え?

「え?え?佐藤蓮!?」

 私はただただひたすらに困惑する。

 え?なんで?今確実に殺したはず……。

「そんなに驚かないでよ。生き返るって言ったじゃん?」

「え、え?ほ、ほんとに?」

「本当だよ。というか今僕が立っているじゃん。殺したのに。ほら」

 佐藤蓮は私の手を掴み、自身の胸に持ってくる。

「ほら、ちゃんと心音しているでしょ?」

「うん。確かに。え?あ、え?じゃあ、ほんとに?」

 佐藤蓮の言うとおり、心臓が鼓動する音をしっかりと確認することができた。え?……え?

「そうだよ。あ、もうそろ授業始まっちゃう。今日一緒に帰れる?」

「あ、うん。平気だけど」

 え?

「じゃあ、一緒に帰ろ。そのときに詳しく話すよ」

「わかったわ」

 え?なるほど。詳しく。

「あ、そうだ。僕のこと、蓮でいいよ。あ、そういえばまだ名前聞いてない。名前なんだっけ?」

「あぁ、うん。私の名前は間宮玲香だよ」

「わかった、玲香でいい?」

「うん。大丈夫よ」

「じゃ、早く教室に戻ろ」

「わかった」

 二人は急いで教室に戻った。

 ぎりぎりではだったが、一限の授業が始まる前には間に合った。

 終始私は蓮の流れに飲まれていた。

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