第27話
「な、何あれ!」
「なんだ?」
「あ……あ……」
悪寒が収まったのか、ようやく前を向いた他の三人が驚愕に目を見張らせる。
弘樹先輩とひな先輩が驚きの声を上げる。
そして先輩は、
「あぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!」
発狂した。
「ベルゼブブだぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!」
部長は今までに見たことがないほどに俊敏に動き、車から出ていく。
へ?
そのまま一切臆することなく蝿の王の方に向かっていく。
「何やってんだが」
ひな先輩の隣に座る少し顔色が良くなった弘樹先輩が呆れたような声を出す。
「おい、ひな。出るぞ」
「え?あ、はい!」
弘樹先輩がドアを開け、外に出る。
なんのために?
そう疑問に思うも、一応私も一緒に外に出る。
「すぅー、はぁー。外の空気はうまい」
深呼吸した弘樹先輩がしみじみとつぶやく。
……もしかしてただ外の空気を吸いたかっただけ?
「ハァハァハァ。髑髏が飾られた羽を持った巨大な青蝿。ほ、ほ、ほ、本物のべ、ベルゼブブ!」
「な、なんだこの小童は。我の姿を見ても動じぬどころか……な、何なのだ?」
部長は気持ち悪い顔をしながら蝿の王、ベルゼブブにまとわりつく。
それにベルゼブブ本人がドン引きしているように見える。
いや、うん。ドン引きする気持ちもわかるわ。
だってキモいのだもの。
「ねぇ、ベル」
「何でしょうか。我が王」
「その姿大きくて邪魔だからもう一個の方に変わって」
「承知いたしました。我が王」
ベルゼブブの体が変化していき、一人の女性の姿となる。
頭からは立派な角が伸び、肌は薄緑。
頭にのせられた王冠が美しく輝いている。
肩まで伸びたきれいな金髪の髪に真っ赤な瞳を持った実に美しい女性だった。
……こんなきれいな人が蓮に……。
「これでいいでしょうか?」
「うん。大丈夫」
「え?えぇぇぇぇぇぇええええ」
女性へと姿を変えたベルゼブブを前に、部長が驚きの声を上げる。
「人化できるの!?」
「えぇ」
「し、知らなかった」
部長は自分の無力さに打ちひしがれ、倒れた。
「まぁそれも無理ないでしょう。私が人の姿になれるようになったのは最近のことですので」
「え?そうなの?」
「はい。ここ最近日本では何でもかんでも擬人化、美少女化されていますよね?その影響でございます。人ならざるものは想いを糧としていますので」
「なるほど……」
「それは西洋の神々も同じなのか?」
べルゼブブと部長の話に割って入り、弘樹先輩が尋ねる。
「えぇ、そうです」
「……なるほど。神は想いによって生まれるのか?」
「えぇ、そうです」
「神が生まれるのにどれほどの想いを必要とするんだ?」
「かなりの量ですよ」
「そうか。なぁ、本当に人間の想いで神が生まれるのだというのなら、日本がいすぎではないか?」
確かにそうね。
日本という小さな島国に八百万の神がいるってことだものね。
樹齢450年の神木も神みたいなものだし。
「えぇ、確かに八百万の神など本来はありえません。しかし、ここ日本は別にございます」
「ほう」
「日本はゴミ箱なのですよ。忘れられた神が、異端としてなかったことにされた神が、追放された神が、ここ。日本にたどり着くのですよ」
「なるほどな」
弘樹先輩はその一言のあと、黙り込んでしまう。
また何か考え事をしているのだろう。
「ん?となると、擬人化への想いは実際に神の性質に変化をもたらしたということなのかしら!?」
部長が驚きの声を上げる。
「えぇ、そのとおりです。おたく、と呼ばれる方々はすごいですね。あんなにも短い時間で神々の性質を変化させてしまうのですから。彼らの想いは歴史上のどの人物の想いよりも強く、美しく、純粋です」
「じゅ、純粋?」
私は思わず首を傾げて疑問の声を上げてしまう。
「えぇ。純粋ですよ。彼らの女性を愛する気持ちは、性癖は、真っ直ぐでとても美しいものですよ」
人間と人ならざるものの価値観には違いがあるのかもしれない。
性癖を純粋などと言うことはないだろう。普通。
純粋な性癖。
性癖なんて不純でしかないと思うのだけど。
「あのあの!質問してもよろしいですか!?」
「えぇ、いくらでも大丈夫ですよ」
「ありがたいわ!じゃあまずは」
「なぁ」
部長がハイテンションでベルゼブブに質問をしようとしたところで、弘樹先輩がその言葉を遮る。
「俺、蓮が不老不死になった理由も戻す方法もわかったかもしれない」
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