第29話

「へ?」

 私の口から変な声が漏れ出る。

 驚いていたのは私だけではなく、ベルゼブブも含めて全員が驚いていた。

「なぁ、蓮。自分が人間じゃない。ってのは薄々思ってたんじゃねぇか?」

「……」

 弘樹先輩の問いかけに蓮は顔をしかめる。

「……うん。弘樹先輩は僕が神だとでも言いたいのか?」

「まぁ、概ねそうだ」

「おかしいですね。私の王はれっきとした人間のはずですが?」

 ベルゼブブが首をかしげる。

 人ならざるものであり、蝿の王でかなり強い悪魔であり、色々知ってそうなベルゼブブの言うことなら証明としては十分そうだから、蓮が神であるということはないのかしら?

「そんなこと百も承知だ。蓮が神である。たったそれだけなのであれば興ざめだ。というか神などどうやって殺すのだ」

 ……。

「東北地方には面白い都市伝説があってな。蓮は東北出身なんだよな?」

「うん。そうだけど」

「東北の青森の村に伝わる面白い伝承なんだが、その内容はイエス・キリストはゴルゴダの丘での処刑を逃れ、ひそかに日本にやってきたというものなんだ」

「あぁ、確かそんな事もあったわね。でも竹内文書は偽書だって事になってなかったかしら?」

「あぁ、そうだな。だから俺もこれは面白い都市伝説としてしか記憶していなかった。キリストの墓があった可能性なんかよりなかった可能性のほうが遥かに高いだろう。しかしだ。その伝承が実際にあるというのは事実だ。火のないところに煙は立たない。悪魔の証明でしかないが、キリストの墓はなかったと証明することはできない。1%でもキリストの墓がある可能性はたしかにあるのだ」

「まぁそうね」

「それで、だ。神は人の想いによって生まれるのだろう?なら、キリストは神であってもおかしくない。なら、キリストの子孫は神の子とも言えるのではないか?」

 ……っ!

「なるほど!じゃあ蓮は神の子だから不老不死だということか!」

「いや、違う」

「え」

 自信満々に告げたひな先輩の意見を弘樹先輩は否定する。

「それなら蓮の家族、先祖すべてが不老不死でないとおかしいだろう」

「あ、確かに!」

「で、だ。俺は蓮が実は神をその身に宿しているんじゃないかと思ってな」

「神を、宿す?」

 ……もう。

「あぁ。キリストは神になった。その神の子孫が普通だとは思えない。故に俺は神の子孫である蓮には神を宿すに耐える器、容量を持っていると仮定したのだ。そして、たまたま山か何かで家が壊され、帰る場所を失った神が蓮の中に入ったのではないかとな」

「……なるほど。それならば僕が神に近しい性質を持っていることの説明にもなるね」

 ……やめて。

「それならあるかもしれませんね。人間が神になった事例はイエスさんしかいなかったはずですしね。もしかしたら神の子孫がそういう性質を持っていることもあるかもしれません」

 なる、ほど。

 ベルゼブブの言葉には重みを感じられた。

「で、解決法なんだが、普通に神札と神棚作っておけばいいのではないかと思っているのだが、どうだろうか?」

「それでいいと思うよ」

「えぇ。それで問題ないかと思われます」

 ……あぁ。

 そっか。

 もう。

 私は……。

 私は………。

 一人なのか。

 一人になるのか。

 もうすぐ。

 

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