第25話
「姿を現せ」
車を出た蓮が一言つぶやくと、突然目の前に大きな壁が現れる。
「ぬりかべか」
弘樹先輩が弱々しい声でつぶやく。
なるほど。ぬりかべか。
よく知らないわ。
「ほい」
蓮はあっさりと大きな壁を切り裂く。
そしてそのまま大きな壁は粒子となって消えていった。
「ふー。……ん?小蝿?」
蓮は首をかしげる。
「っ!そういうことか!」
だがすぐさま何かに気づいたかのように顔をこわばらせ、蓮は少し焦ったような声を出す。
「絶対に車から出るなよ!」
蓮が私達に向けて叫んだと当時に世界に亀裂が走る。
パリン
亀裂は急速に拡大していき、世界が割れる。
割れた世界からぶーんという音ともに漆黒が押し寄せる。
「あれは、小蝿か?」
弘樹先輩がポツリとつぶやく。
確かによく見てみると、それは小蝿のようにも見えた。
漆黒に見えてしまうほど数多くいる小蝿の群れが一斉に蓮を襲う。
蓮の小さな体はあっという間に小蝿の大群に飲み込まれる。
蓮の体の穴という穴から小蝿が入り込み、体を貪り食らう。
あたりに蓮の血が撒き散る。
「「ひっ!」」
部長とひな先輩が悲鳴を上げる。
「落ち着け。あいつは死なないのであろう。なら慌てる必要はない」
そんな中、一人冷静な弘樹先輩が話す。
「なぁ、部長。あれはベルゼブブかなんかか?」
「え?あ、ひゃ。その。多分違う。ベルゼブブは大悪魔。小蝿の集合体じゃない」
蓮を見て動揺しながらも、部長は答える。
「なるほどな」
「でも、あの小蝿を操っているという可能性はあると思うわ」
「……なるほどな」
弘樹先輩が顔をこわばらせる。
確かに私でも知っているような悪魔と戦うとか無理ゲーすぎるわね。
私の覚えている限りのベルゼブブだと、大悪魔で魔神の君主、あるいは魔界そのものの君主とされている。 地獄においてはサタンに次いで罪深く、強大なもの、権力と邪悪さでサタンに次ぐと言われていて、その実力ではサタンを凌ぐとも言われる魔王だったはず。
あぁ、あと7つの大罪の『暴食』だっけ。
なんかイエス・キリストとか神様あたりが戦ってそうなラスボスに私達が勝てるはずがない。
あら?
これ本当に相手がベルゼブブだとしたら詰んでいるのではないかしら?
「おい、ちゃんと窓が閉まっているか確認しろ。一応密閉になるように作ったつもりだが」
この車はオカルト関連を探すためのものなので、なんかあったときのために一応完全密閉かつ頑丈に作ってあるらしい。
空気はどうしているのかしら?
え?あ、ちゃんとそれようの機械はある。
あ、そうなの。
「最悪の場合。あの小蝿全員倒したあと、さっきの割れ目に入り、割れ目の奥にいるだろうベルゼブブと戦わないといけないわけか。……蓮がどこまで戦えるかだな。俺らは戦えん」
私は胸元に隠しているナイフに触れる。
あの大群をナイフ一本でさばくのは無理だろう。
確かに蓮は花子さん人形を相手に完封勝利していたけど、さすがにベルゼブブと花子さんを比べるのはだろう。
一学校の怪談と大悪魔じゃ格が違いすぎる。
蓮についてあまり詳しくは知らないけど、所詮不老不死なだけ……。
あ。
一応神木にも認められた神様でもあったんだっけ。
なら……!
いや、所詮樹齢450年の木に認められただけの神様にそんな力はあるのかしら?流石に無理かしら……。
「蓮を見捨てて俺らだけでも車に乗って逃げることも視野に入れておいたほうがいいな」
「なっ!」
「仕方ねぇ。俺らには何もできん。蓮は死なないんだ。なんとかできることを信じて置いていくのが最善だ」
「……」
私は何も反論できない。
……私達はどうしても無力なのだ。何もできない。
当然だ。私は快楽殺人鬼だ。でも、所詮ただの人間でしかない。
私はただここで蓮の勝利を願うことしかできない。
……最悪のときは。私もここに残ろう。
そして……。
「あぁ!うざったい」
蓮がまばゆいばかりの光を放出する。
蓮にたかっていた小蝿たちを押しのけて進む光は途中で停止し、私達を囲むようなドームのようなもの、結界になる。
結界の壁が光り輝いている。
おぉー!
蓮がこんなことできるなんて。
「ゲホ!ゲホ!」
蓮が膝をつき、口から大量の小蝿を吐き出す。
「「ひっ」」
立ち上がった蓮の顔を見た部長とひな先輩を悲鳴を上げる。
蓮の口や鼻から小蝿が漏れ出て、瞳にも小蝿がたかっていて蓮のきれいなアメジストの瞳を覆い隠している。
その姿はいたましく、気持ち悪かった。
吐き出された小蝿は再度飛び上がり、蓮を囲む。
そして再び蓮に突撃する。
「しっし」
それを蓮は腕の一振りで倒す。
蓮の腕にあたった小蝿は粒子となって消えていった。。
一方、結界の外側に追いやられた小蝿たちはバカの一つ覚えのように結界に突撃を繰り返している。
結界は確実に小蝿たちの進行を食い止め、私達を守っていた。
だが、その結界の輝きが最初よりも衰えている。
結界もそう長くは持たないだろう。
そして、結界が破壊される。。
再び小蝿が蓮に群がり、一瞬で姿が見えなくなる。
「はぁー。人の身でできないことはしたくないんだけど」
連がため息を一つつく。
そして、
私の体を悪寒が走る。
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