第34話

「こんばんはッス! 云話事町TVの時間ッス!」

 美人のアナウンサーはピンクのマイクを握っている。

 背景はB区の薄暗いビルディングが聳えている。

「今は藤元さんはあの後、空へ飛んで行って今日はお休みッス」

 美人のアナウンサーは一人だけで話し出した。

 周囲の通行人もこちらをちらほらと見ていた。

「これから、日本は大きな転換機を迎えます。何故なら日本全土にスリー・C・バックアップ。C区の全面的技術提供案が可決され、その発足が一週間後です。一体どうなるんですかね……藤元さん?」

 美人のアナウンサーは隣にピンクのマイクを向けた。


 しかし、そこには空気のみ。

「あ……いないッスね。空に飛んでってしまったッスね……」

 残念そうな美人のアナウンサーは、仕方なくピンクのマイクを握り。

「番組の情報では、今は5千万人の老人の介護をアンドロイドのノウハウがやるってことだけが伝わってきています。現奈々川首相のことだから、きっと、いい方向に向かう政策を実施するはずです。きっと……。確かに今の時代は老人が5千万人もいて人々の老後のことを考えると、どうしても暗くなります。労働力も甚だしく落ち込んで、未来は暗いように見える。だから、仕方がないのですね。後は、どれだけ人間を尊重することが出来るかです。お年寄りも命ある人間ッスからね。私は現奈々川首相ならきっと大丈夫だとは思います……きっと、人間的な政策を発足しますよ!!」

 美人のアナウンサーは微笑んだ。

 周囲の通行人もいつの間にか、美人のアナウンサーの方を見つめていた。

「きっと、日本の将来は大丈夫。それでは、今日の運勢コーナーと天気予報です……って、藤元がいないッス!」


 番組はそこで終わった。


「藤元さんは、必ずやってきます。エレクトリック・ダンスを阻止です」

 晴美さんが力強く拳を振るう。

 晴美さんも3年前からあまり変わらない。

「ああ……」

 夜鶴はそんな晴美さんをニッコリと見つめた。

「そうね。でも、現奈々川首相の命も守らないと、人の命は無駄にしてはダメよ……」 

 河守がニッと笑った。

 僕は何故か赤面したようだ。

 河守の顔が何故かまともに見れなかった。

「雷蔵さん……。どこかで話さない。私たちを生き返らしてくれたんでしょ……ちゃんとしたお礼もしたいし……」

「ああ……」

 僕は河守を自分のバーへと連れるために、私用エレベーターへ案内した。

 箱の中でもやっぱり河守の顔がまともに見れない。


 そんな僕の顔を河守が覗いて、ニッと笑った。

「だいぶ人間らしくなってきたわね……」

 そう言うと、河守は悪戯っ子のように笑い出した。

 僕は急に顔を隠したくなった。

 きっと、赤面しているだろう。その顔を必死に見られまいとしていた。

 ドギマギしていると、エレベーターは51階へと着いた。

 バーに着く。

 左側に種々雑多な最高級の酒が陳列している飾り棚のあるカウンター席。正面から右側にはお洒落なテーブルが幾つもある。窓の外には光り輝く云話事レインボーブリッジが聳えていた。

 窓際の洒落たテーブルの一つに河守が座った。

 僕はぎこちなく一番上等な酒とグラスを二人分用意した。

「ねえ、提案がるのだけど、あの人たちのことは今は放っておいて、私たちの時間を作りましょうよ。どうせドンパチ賑やかになるのは、一週間後なのだし」

 窓の外には、様々なネオンの巨大なテーマパークのようなビルディングも見える。

「まずは、生き返らしてくれて、ありがとう」

「いや……」

 僕はまともに河守の顔が見えないで困っていた。

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