第13話 九尾の狐

 夜も更けて寒さが本格的となる。

 夜の20時。

 僕は藤元の自宅にいた。

 C区の追っ手からなんとか逃げ切って、キッチンでコーヒーを頂いている。フェラーリもボロボロになったため。現在、近くの車屋さんで新しい車を頼んでいる。

「もうそろそろ。夜の番組が始まっちゃうから、ここにいてね。ここなら僕のバリアー(?)があるから平気なんだ」

 藤元は何故か僕に優しかった。3年前の野球でA区の人たちを酷い目に合わせた僕のことをどう思っているのだろう?

 藤元は鼻歌を歌いながら、黒いコートを羽織った。

「じゃ、行ってくるね」

 マルカとヨハは、広く全体的に黒が基調のキッチンのテーブルで、椅子に居住まいを正していた。

「藤元様~~。ありがとう~ございました~~」

「藤元様。お気を付けて下さい……」

 マルカが僕を見つめた。

 僕は頷いた。

 マルカは護衛のために藤元の後を追った。その後は、九尾の狐の情報入手だ。

 マルカが出ていくと、ヨハが僕の腕の包帯を点検してくれた。

 血が滲んでいてヨハが険しい顔をしたが、止血剤を打てば大事はないだろうと言った。

 しばらくすると、ヨハがキッチンにある真っ黒いテレビを点けた。

 

「お久――!! 云・話・事・町・TV!! オッケー!!」

 ピンクのコートを着た美人のアナウンサーは、ピンクのマイク片手に傘をさして、A区の町並みを背景にしている。

 雨が降り出していた。

「藤元さん。今日は寒いっですね」

「え?! ……ええ」

 藤元は傘を振り回し、能天気に鼻歌を歌っていた。

「今日の午後に、国道30号線でまたまたカーチェイス・アーンド・銃撃戦が起きたッス。最近多いですねー。怪我人だけでたそうです。でも、何故か事故のことをよく覚えていないとほざいていました。そして、またあの謎の男が関係してるッス。惚れちゃいそうですねーー」

 藤元はカメラに向かってピースをした(死者は藤元が全て生き返らした)。

 藤元の後ろの電柱にはマルカが立っていた。

「番組では、その謎の男を応援しています。きっと、日本を救ってくれる救世主なのではと思っております(私が!!)。一体、どこにいるんですかねー。ね、藤元さん」

「へ……。ええ……。へ……? そうですね」

「それでは、今日の天気と運勢はって、もう寝る時間ッス!!」

 番組はそこで終わった。

 

「雷蔵様~~。何か作りますね~~。藤元様のキッチンちょっとお借りしま~す」

 ヨハが元気良くキッチンの冷蔵庫を開けると、そこには…………。

「雷蔵様~~。外で食べましょう~~」

 僕とヨハは傘をさして近くのラーメンショップ(嵐のラーメンという名だ)へ向かうことにした。質素な玄関には、白いスニーカーがたくさんあった。青緑荘というアパートを横切り、コンビニの前を通ると、ラーメンショップについた。



 店内は薄暗く。

 お客が二・三人しかいなかった。

 カウンター席しかないので、仕方なくヨハと並んで座ると、無愛想な女性バイトがメニューを持って来た。

「ラーメン。ラーメン大盛り。ラーメン極上盛り……。ラーメンウルトラスーパー超絶一年分……。……うーんと、普通のチャーシューメンにしようかな」

 30代くらいの女性バイトが残念そうな顔をして、メニューを下げようとしたら、隣の正常に戻ったヨハはニッコリとして、野菜炒めを頼んだ。僕に食べさせるためだ。

 奥の厨房には遠山 紙魚助(とおやま しみすけ)がいて、こっちを静かに見ていた。

 背が低く歳は40代だ。

 僕が3年前に野球の試合で必死に戦った人物だ。

「やっほー、遠山さん。あれ?!」

 店の入り口から島田 谷津陽(しまだ やつよう)が入ってきた。

 黒いジャージの上下を着ていて、長身で均整のとれた顔だが、目元に青い痣がある。

 その後ろに赤いコートを羽織った弥生がいた。カールが無数にある赤い髪の細身の美人だ。二人とも20代後半である。

「って、や! 矢多辺 雷蔵じゃねーか!!」

 島田が暴れそうになる。3年前の野球の試合で戦った相手だった。ヨハが急に立ち上がり、島田を間延びした声で説得しだした。

「申し訳ありません。島田様。今はC区と交戦中なのです。ですので、休戦をお願い申し上げます」

 無表情の島田が僕の隣に座った。

「なんか起きたの?」

 途端に優しくなった島田には、お冷が配られる。

 弥生が島田の席の隣に座ると、

「夜鶴さんに言ったほうがいいのかな。怪我もしてるし……何か起きそうよ……」

 僕の腕の怪我を見て不安気な声を発した。

 島田が瞬く間に好戦的な顔になった。

「いや、島田さんや夜鶴さんたちを巻き込みたくはないんだ。それと、3年前の野球ではすまなかったね。確か右肩だったっけ。僕はA区にある女性を探しに来ただけなんだ」

 僕とヨハにもお冷が配られる。

「いやいや! 気にしてねーぜ! 右肩だったかも忘れたー! もう3年前だしな! それより、なんかスリルありそうじゃねえか?! 俺にも手伝わせてー!! 役に立つからー!」

 島田は3年前から全然変わっていなかった。

 弥生もそうだ。

 島田と弥生はタンメンと餃子二皿を頼んだ。

 注文したチャーシューメンと野菜炒めが届いた。

 チャーシューメンの肉はトロトロとしていて、口の中に油をまんべんなく染み込ました。すごく美味だった。

 野菜炒めを食べずにいると、ヨハと島田が口を開いた。

「雷蔵様~~。お野菜を取りませんと~~。いけませ~ん」

「そうだぞ! 野菜を食べて、俺にスリルと戦争くれ!!」

「雷蔵様~~。お野菜~~」

「野菜食べて、俺にスリル入りの戦争ー!」

 

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