第10話

「今晩はーー!! まだ寝るには早いっす!! 云話事町TVッス!!」

 ピンクのコートを羽織った美人のアナウンサーが、暗くなったB区の云話事イーストタウンを背景にしている。

 藤元は呑気に鼻歌を歌っていた。丁度、寝間着を着ていて、お風呂を入りおえたといった感じだ。

 夜の10時を回ったところである。

「今日の午前10時頃に、このB区の云話事イーストタウンで二体のノウハウと二人の男女が、カーチェイス・アーンド・銃撃戦を起こしたッス。周囲の道路は銃弾で穴だらけだったんですが、警察によりますと、今のところ怪我人はカーチェイスをした男だけのようです。警察はこのことを公開しないようにといっておりますので、残念ですが公開はしません。謎の男ですね~。現首相のお蔭で平和になったっていうのに、また何か起きるんですかね~~。ね~、藤元さん?」

 藤元は神社なんかでお祓いに使う棒を振っている。

「え? ……すいません。聞いていなかったです……」

「聞け!」

「寒くなってきました。少し暖かくしますよ……。お風呂入りおえたんで湯冷めしそうなんですよ……。その、うーん、と。わかりません……」

 藤元の振る棒の回数と同じく。気温が上昇してきたようだ。

「それでは、皆さん。今日はお休みなさー……。あ、今日の運勢は。というか、これからの日本を藤元さんやっぱり教えてください」

 藤元の顔にカメラが迫った。


 少し鼻毛が伸びているが、それ以外はいたって昔と変わらない。


 藤元は、少し大き目の本を取り出した。それを読み始めると、

「う~ん、と……。そうですね~……。今言えるのは、これからこの国は大変なことになるかも知れません。けれども、一人の男によって、救われると読み取れますねー。その人たちにフャイトを送りましょう」

 美人のアナウンサーはニッコリとし、

「それでは、皆さん御機嫌よう~~。お休みなさーい」


 僕は気が付くと、ヨハの突き出すフォークにあるリンゴの欠片を食べていた。

「やった! やった! やった~~! 雷蔵様が食べてくれました。これでエネルギー充填完了ですね」

 故障か正常化ヨハが大喜びだった。

 僕が寝ようとすると、ヨハがベットの脇の電気スタンドとテレビを消してくれた。

「雷蔵様。お休みなさいませ」

 僕は大きな欠伸をした。

 明日になったら、マルカから連絡がくるだろう。僕はそう思った。

 

 ガシャンという大きな音で、目が覚めた。

 目を開けると、眼前にノウハウの顔が迫っていた。白衣のノウハウが僕に覆い被さっている。手には透明な液体の入った注射器を持っていた。だが、ノウハウの顔面には隣の丸椅子に座っていたヨハが強烈な右ストレートを打ち込んでいた。

「ノウハウ一体! 撃破しました!!」

 どうやら、僕を暗殺しようとしたが、ヨハがまったく寝ないアンドロイドなのを解らなかったのだろう。

「何でもないですよ~。雷蔵様~~。お休みしていてくださ~い」

 ノウハウが床に崩れ落ちると、僕は早朝の弱弱しい日差しを顔に受けた。

 注射器は床へと落ちて、粉々になった。

 

 多分、午前5時頃だろう。

「ちょっと~。このノウハウを片付けてきま~~す」

 また故障したヨハの間延びした声を聞いていると、ヨハの故障の頻度が目立つことに気が付いた。

廊下が騒がしくなった。

「大丈夫ですか!?」

 複数の医者と看護婦たちが血相変えて室内に入って来た。

 

 僕は「大丈夫です」と一言告げると、ふと思ってヨハに声をかけた。

「ヨハ。君はそのノウハウのプロフィールデータを抜き取ってくれ。坂本の向けた刺客なのはわかるけれど、確認をしておきたいんだ」

「了解です」

 ヨハの声を聞いていると、白衣の医者が柔和な顔で僕に言った。

「何らかの事件やトラブルに巻き込まれているんだったら、警察にちゃんと話さないといけないですよ。もう昔と違って治安がよくて、人間として平和に生きていける社会になったのですから」

 僕は自分自身非合法なことをしているので、その男には適当に相槌を打って何も言わなかった。

 医者は苦笑して、看護婦ともども持ち場に戻ると、ヨハが白衣のノウハウからプロフィールデータを取り出そうとした。しかし、プロフィールデータの小さい基盤は急に発火する。

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