第20話

 夕食後。河守が何の前触れもなくテレビを点けた。


「こんばんはッス。云話事町TVッス!!」

「ハイっす。藤元 信二ッス!!」

 美人のアナウンサーの隣に、額の汗をタオルで拭いている藤元がいた。どうやらとにかく疲れているようだ。

「今日は那珂湊商店街に来たッス」

 後ろにはブルーシートが散乱し血痕が所々に付着しているが、付近の人々は何やら藤元に向かって手を合わせて祈っていた。警察の人たちが藤元を見つめて唖然としている。

「いやー。さっきまで銃弾で人がいっぱい死んでいたんですけど……」

 美人のアナウンサーはピンクのマイク片手に後ろにある三番アーチを見た。そこの近くの喫茶店が激しい銃撃戦で、窓は割れ椅子やテーブルは滅茶苦茶で派手にやられていたが……。

「すいません。僕がもう生き返らしちゃったから……」

 藤元は頭を下げた。

「なので、プロフィールデータが破損し、何者かに破壊されたノウハウが15体だけしか、現場に残っていないッス。製造元も判別できないっていうし……。死んだ人は生き返ってよく覚えていないって言うし……。すみません」

 美人のアナウンサーは首を垂れる。

「でも、またまたあの男が関係してるみたいですね……藤元さん?」

「え……へ……? ええ、そうですね」

「一体? どこにいるんですかねー……? 藤元さん?」

 美人のアナウンサーはピンクのマイクをくたくたの藤元に向ける。

「え……へ……? ええ、そうですね」

 藤元は顔をタオルで拭きながら、元気のない表情をして荒廃してしまった那珂湊商店街を見回していた。

「……なんか知っているッスか?」

「え……へ……。ええ、そうですね」

 美人のアナウンサーの眉間に皺が寄って来た。

「以外とA区の藤元さんの家にいるッスか?」

「え……へ……。ええ、そうですね。もうどこかへ行っちゃったけど……」

 美人のアナウンサーはニッコリ微笑むと、藤元をヘッドロック。アンド。ピンクのマイクで刺す。そして、ぐりぐり。

「てめー!! 藤元ーー!! 私の謎の男――!! 日本の救世主――!! 今現在独身生活真っ只中の20代後半の乙女心をどうしてくれるんじゃ――!! 謎の男のことすぐ教えろーー!!」

 番組はそこで終わった……。


 深夜の1時30分。

 マルカと原田が戻ってきた。

「雷蔵さん。云話事サイバータウンの情報屋に向かったマルカちゃんや、俺が聞いた博田 定則。二つの情報を合わせると、どうやら、敵はC区の霧島インダストリー社の興田 守だけじゃないんだ。敵は大勢いる。裏でC区の重役のほとんどが関わっているみたいなんだ」

 マルカはキッチンへ行くと原田のために紅茶を淹れた。

「そうか……。まあ、10憶の金くらいじゃ済まない計画だから。C区がこぞって関わるのは、仕方ないかな」

 僕は欠伸をしながらそういうと、九尾の狐の方へと向かう。

 九尾の狐は相変わらず砂糖を大量に入れたコーヒーを飲んで、質素なテーブルで端末をカタカタと弄っていた。その顔は疲れを知らないかのようだ。

「何か情報は入ったかい?」

 僕の言葉に、

「ええ。でも、もう少しだけ待って……」

 しばらくすると、九尾の狐は端末から顔を上げ、河上を呼んでこちらに向いた。

「まずはエレクトリック・ダンスの話からね。今ある情報だと確かに5千万人の老人を社会から隔離して介護や援助をノウハウが独占する。それに、変わりはないわ……。ただ、利益を国から永続的に搾取するだけじゃなさそうね。まだ、裏があるわ」

「姉さん。それって、どういう事。まだ、何かあるの?」

「ええ」

 僕は事の大きさにまた欠伸が出そうになったが、

「まだ……裏がある……か」

 僕は欠伸をした。

「後、現奈々川首相の暗殺は二週間後の選挙の時のようね」

 僕はそれを聞いたら真っ青になった。

「どうしよう……晴美さん……」

 気が遠くなりそうで、仕方ない。

 アンジェとマルカとヨハを連れて、C区と戦争するにも敵が多すぎるし、不明なところも多い。

「雷蔵様~~。大丈夫ですから~みんないるじゃないですか~~」

 原田が抱きついているヨハが自信のある声を出した。

「そ……そうだね」

 河守は僕を見つめると、

「あなた……。少し強くなったわよ」

「へ……?」

「そうね……14日後の現奈々川首相の暗殺を阻止するために、これからどうするのか具体的に考えましょ」

 河守が普通の美貌の髪をなびかせ、白いテーブルに腰かけた。


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