第41話
病院へ着くと、病室で晴美さんと夜鶴。島田や田場、津田沼に遠山たちA区の人たちがいた。後、犬。
「皆さん……すみません。私の力が至らないばかりに……」
晴美さんは病院のベットで上半身だけ起きて泣いていた。
「無理もない。毒は僕たちも警戒していたが、見落としていたんだ」
僕は河守の言ってくれた作戦を見落としていた。
ここまで、姑息な手を使うとは思ってもいなかった。
「いいえ……今の時代の選挙には、みんなの力だけではなく。私の力も必要なのです。何とか勝たなければならないですね……」
「そんなに~~、一人で抱えなくても~~いいじゃないですか~~」
ヨハが気を使った。
「そうです。晴美様は何も力を失ってはいません」
マルカ
「雷蔵様。C区を倒しましょう」
アンジェ。
「アンジェさんたち……。ありがとうございます。けれど、争わない道を見つけてください。相手も人間です」
晴美さんの言葉は病院に設置されたテレビの音声で少し遮られた。
一人の男性のアナウンサーが、空気が濡れているかのようなしっとりとした晴れの中、牧歌的な風景のA区を背景にして話していた。
「皆さんこんにちは。今日。興田首相のエレクトリック・ダンスが発足した模様です。今から65歳以上のお年寄りは全て在宅介護対象と在宅援助対象。在宅看護対象。在宅労働援助対象……。特別老人ホーム入居対象。など必要な援助をノウハウたちによって受けられます。年金は廃止され、全て無料で受けられるそうです。しかし、財源の問題は底をつきかけている国家予算からではなく。老齢管理税として、A区に少し負担がかかる程度の徴収をしていくとのことです。今までの国が請け負った負担が軽減され、C区とB区には、これからの社会的成長を老後を気にせずに目指していけるようになりました」
男性のアナウンサーの後ろにはA区の人々が顔を見合わせていた。
「どうしました?」
男性のアナウンサーがマイクを向け、一人の作業服の男性に質問した。
「俺たち……。老後はノウハウが援助をしてくれるんだよな?そして、その金は俺たちが支払う。どこが無料なんだ?」
男性のアナウンサーは言葉を落ち着いて紡ぐ。
「仕方がないかも知れませんね。何故ならお年寄りが一番多い地区がA区ですからね。……年金を収めるようなものだと思うしかないかも知れませんね」
作業服の男性は頷くしかなかった。
男性のアナウンサーは今度は中年女性に質問した。
「どうしました?」
「私、ノウハウで大丈夫なのかなっと思ったんです。だって、機械でしょ。怖くて寿命が縮む感じよ」
「ええ。それは心配しなくても大丈夫ですよ。そのためのスリー・C・バックアップですから、C区の全面的技術提供案なのです。老人の介護や援助がそれも高度に出来るプログラムなんですよ。何も心配しなくても大丈夫です。それに、まったく人がいるわけではなく。ごく少数の介護士の方たちも一部は参加するようです。ですが、お年寄りは全国で5千万人もいらっしゃるので、大部分はノウハウの技術に期待したいところですね。それでは、ご機嫌よう」
周囲のA区の人たちは一時、不安を押し込めた。
番組が終わると、河守がニッと笑った。
「まだ、方法があるんじゃない?」
河守にみんなが一斉に目を向けた。
河守は晴美さんのベットに腰かけて、みんなの前に人差し指を挙げた。
「三年前の日本全土を左右した。あの野球。あの方法をまた取りましょう」
河守がニッコリと笑った。
晴美さんは目を大きく開いて、
「そうです。その方法を使いましょう」
病室にいる私たちが、立ち上がった。
「そう……レースで……」
河守は得心した顔をした。
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