第42話
病室の窓から藤元が入ってきた。どうやら、空を飛んできたようだ。
「雷蔵さん。晴美さん。番組が始まりますよ」
藤元が元気だ。
突然、美人のアナウンサーが病室に入ってきた。
「コラ!! 藤元!! 放送中に飛んでいくな!!」
どうやら、病院の外で奈々川首相の病態を案じ、放送しようとしていたのだろう。
美人のアナウンサーがピンクのマイクで藤元の頭を刺すと、藤元は瞬時に立ち直り、カメラマンに晴美さんを写させた。
「みなさん。奈々川首相は無事ですよー。番組は奈々川首相を応援しています」
マイクなしの藤元は晴美さんを励ました。
晴美さんは涙を拭いて、飛び掛かる美人のアナウンサーのピンクのマイクにはっきりと宣言するために、ベットから上半身を奮い立たせる。
「私は無事です。けれど、日本の将来はどうでしょうか? スリー・C・バックアップで得たものとは、人間性ではないでしょうか? ごく一部のB区とC区だけが発展していっても、やがてはその国は病んでしまうのではないでしょうか? A区の人々は日々、みんなと協力して生きています。その人達にはスリー・C・バックアップでアップデートされたノウハウの維持費を支払うのは、堂に入ってはいないのでは? 確かに老人が一番多いのはA区です……。それでもA区が元気に、そして、より良く生きていけるには、やはり、人間性が必要です。A区の人たちにも老後が待っています。B区やC区だけではないのです。発展とは、A区の人々も含めてではないでしょうか? 5千万人の老後の問題は日本全国の問題です。……私は思います。機械のノウハウに老人の介護を任せるのは、孤独死と同じ目に老人を合わせるのではと? 老人も人間です。例えボケても人間です。その老人に暖かく、人間的に接せられるのは、やはり、人間だけです。人間性のために、私たちは立ち上がります!!」
晴美さんはそう言うと、ベットから降りだした。
「今の私は援助が必要な体です。ですが、アンドロイドのノウハウの援助と人間の援助とでは、どちらが尊いでしょうか。人間的なドラマがなければ、心の交流がなければ、私たちの老後は死んだも同じです!!」
晴美さんはそう言い終わると、力尽きてベットに倒れる。それを夜鶴と島田が受け止めた。
美人のアナウンサーは涙を拭いて、力強く頷くと。
「どうです!! 私の思惑通りに晴美さんの政策が絶対に一番になりますよ!! これから、私たちも番組も含めて立ち上がります!!」
藤元が晴美さんの容体を看ていた。
「先生!!」
藤元が医者を呼んだ。
「だ……大丈夫……です……」
晴美さんは起き上がろうとするが、夜鶴が制した。
「晴美さん!! 寝ているんだ!! 毒がまだ抜けていない!!」
「大丈夫です……」
晴美さんが夜鶴を押しのけて起き上がり、
「3週間後に私たちは、もう一度、選挙戦を興田首相に挑みます。それはレースの試合でです。こちらが勝手に決めた試合なので、ルールは興田首相に託します」
晴美さんはそう言うと、ベットで横になって、再び目を瞑った。
「今度は、レースですね。ハイ!! 了解ッス!! また、日本全土を左右する場面に出くわしたッス!!」
藤元は喜んで話している美人のアナウンサーの隣で、緊迫した顔をしていた。晴美さんの体内の毒は、致死性の毒だったのだ。
次の日。
僕はA区の青緑荘の前でスポーツカーを並べていた。
ランボルギーニ・エストーケ。ランボルギーニ・ポルトフィーノ。ディアブロ。ガヤドル。ウラカン。ソニア。ラプター。アヴェンタドール。スカイラインGTR.スカイラインクロスオーバー。
それぞれ僕のお気に入りの車だった。
この車たちでレースをする。
原田と僕がそれぞれの車の説明をすると、A区の人々と夜鶴たちが、島田。広瀬。淀川。田場。津田沼。山下。夜鶴。流谷。遠山が真剣に耳を傾ける。
「ウラカンはエンジンがV型10気筒DOHCで。排気量が5.1Lくらいかな。アヴェンタドールはV型12気筒DOHCのエンジンで。排気量が6.6Lだったと思う。多分、間違っているかも知れないけど、こんな感じだ(矢多辺はかなり昔に買った。自家用車なので間違っている)」
僕と原田は説明をしていた。
十字路が多々ある小道に所狭しと置いたスポーツカーの間を、小走りにきた女性バイトが遠山に何かを渡した。
「お守りです」
女性バイトが頭を下げる。
「……」
遠山はそれを受け取ると無言で力強く頷いた。
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