第6話
「……」
僕は資料を注視していたが、ノウハウに数点だけ指示をだして、資料を戻させた。エレベーターが136階に着いた。
扉が開くと、すぐにオフィスだ。 時間を無駄にしない作りだった。広々としたフロアに入ると、各々のディスクへ向かう人々を見て、僕は思うところがあった。
晴美さんのことを考えていた……。
スリー・C・バックアップを僕が海外に横流しすると、君はどう思うだろう?
僕がやったとはわからないだろう?
でも、もし……知ってしまったら?
「雷蔵さん! また上の空よ!」
気付くと、河守が目の前に座っていた。
時計を見ると、いつの間にか、午前の仕事を終え。丸松牛定食を102階のいつもの高級和食レストランで食べて。午後の仕事をして。そして、会議の時間になっていた。
「もう! ここんとこ、いっつもそう! 私が来てから毎日じゃないの!」
今年に入社した河守がぐるりと、長いテーブルを見回す。河守を含めて13人の人たちはノウハウから渡される資料を見ていた。
僕にそんな一言が言えるのは、河守ひとりだけだった。
「そんなに思い詰めるのなら……しなければいいのに……。因果応報って、言葉知らないの?」
「…………」
スリー・C・バックアップの横流しのことは、恐らく矢多辺コーポレーションで社内で発言することができるのは(外部に知られるとまずいのだけれど)、僕と原田とこの13名しかいない。
元々、矢多辺コーポレーションは、非合法擦れ擦れや時には絶対に公に出来ないことをしてしまうという事業を行っている余り健全じゃない会社なのだ。
でも、C区の技術開発を受け持つ会社や工場は、金になるのならば、どんなところにでも売り出そうとしている。けれども、今では世間と国のためを優先して会社イメージのために奈々川さんに協力をしているだけなんだ。
悪いことをしようとしているのは僕たちだけじゃないが、きれいごとをやっていないといけない社会になった。
だけど、勿論C区の技術を非合法で海外に流すと、日本の国は更に衰退していっていしまう可能性がある。
それは特許だ。
横流しの場合は特許が相手が持つようになってしまい。利益に大いに影響がでてくる。日本の企業がもともと特許を持っていても、僕たちが海外で売ってしまうと、どっちが先に技術を開発してきたかで相手の企業が裁判をしたりと大変だ。
さっき電話にでた坂本 洋子は産業スパイのようなことをしたんだ。
簡単にいうと、僕たちがC区の企業の秘密情報を勝手に坂本 洋子を使って持ち出し、自分たちの利益のために海外に安く売りさばいてしまうのだ。
恐らく、海外でもノウハウが活躍するこのご時世じゃ、他企業も狙っているんじゃないかな?
それと、証拠もなにも残さない。……いつものことだ。
「ねえ? 本当に大丈夫なの? 顔色が悪いわよ。悪いことは密かにしていても、いつかは日の目にでるものよ……。今なら止められるわよ」
河守がいつの間にか、僕の席に淹れたてのコーヒーを置いてくれていた。本当に心配しているのだろう。河守がこんなことをするなんて……。
「ああ……大丈夫です」
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