第37話 選挙活動
今の時代は暗殺は覆すのが難しくなっている。何故なら相手がノウハウだからだ。人間ではないので、刑務所に送るということもない。僕たちに出来ることはノウハウの脅威を防ぐために一丸となって、ノウハウを迎え撃つことしか出来ないのだ。
けれど、二つの方法がある。超一流のハッカーがノウハウのプロフィールデータを外部から遠隔操作で、書き換えてしまうということが出来るようだ。かなり難易度が高いが。
それには当然、こっちには九尾の狐がいる。但し、暗殺指令を受けたノウハウが姿を現さなければ、それに僕たちが気が付かなければならない。
それか、危険なノウハウを一足先に破壊するということ。とにもかくにも、危険なノウハウをいち早く見つけることが第一だ。
難しいけど、それが僕たちの持つ。暗殺を阻止出来る二つの可能性なのだろう。
ここで、僕は思う。
ノウハウも人間と同じく。信用出来ない時があるということだ。
中には人間にも危険な人物も混ざっているのだろう。
ただ、人間もノウハウも大勢いる演説の場だから、信用することも大切なのかもしれない。
僕は今、自分の家の部屋に河守といる。
快晴の外から柔らかな日差しがアスファルトに照っている。九尾の狐と原田も昨日の夜に34階のキッチンに作戦行動のために来ていた。
朝食を河守とゆっくりとした後。
河守も極度の緊張をしているようで、あの河守が顔が少しだけ強張ってみえる。晴美さんもこのぶんだと大変なのだろう。
僕は胸ポケットにあるデザートイーグルという銃を密かに買っていた。
弾丸はハローポイントのようなものだ。ノウハウの鋼鉄の体にも通用することが出来る。
「雷蔵さん。もうそろそろね」
「ああ……」
僕は人間になっても、大変な問題があるのに気が付いた。
それは、信用だ。
信じ合わなければ、前に進めない時がある。
けれども、それが難しいのは昔の僕にも解っていた。
僕たちは、みんなのいる34階へと向かった。
「雷蔵さん。もうすぐよ……」
河守は僕に再び同じこと言った。
34階のキッチンには、窓際のテーブルに九尾の狐が端末を前に砂糖を大量に入れたコーヒーを飲んでいた。九尾の狐の隣に座っている原田は緊張のせいで、テーブルの上の紅茶を一口も飲んでいなかった。
「まずは、暗殺をしようとしている人間かノウハウを見つけることね」
九尾の狐は端末で、C区の重役のメールをハッキングして閲覧していた。膨大な量のそのメールには、当然社用のことが載ってあり、たまに休日はゴルフをしようと書かれた文があった。
「原田。人間の方は君に任せる。九尾の狐はノウハウを警戒してくれ」
僕はそう言うと、河守にここで待っててくれと言って、晴美さんの選挙カーが通る大通りへと拳銃を持った原田と小型の端末を持った九尾の狐と向かった。
僕の家の正面には、外にはもう大勢の人々が集まっていた。
それもB区やC区の人たちだけではない。A区の人たちもいる。
その人々を含め。見張りの警察官たちや警察の帽子を被ったノウハウたちが周囲の十字路の広い道路やカフェレストランや不動産会社。銀行などの建物の二階や付近で警備をしていた。
人だかりのある電信柱のない歩道を歩いて、信号機を挟んだ向かいの道路にも警戒したが、お祭り気分の人々は至って微笑みが漏れそうな顔をしていた。
しばらくすると、歩行者天国となった片側三車線道路沿いには、当然、元々白いロープが一本。警備のために腰の辺りに引かれてあり、警備のノウハウがそこへと一斉に並んでいた。演説をする選挙カーが数台緩やかに通り過ぎていく。何台もの車両には、今日出馬した選挙をする男や女が大々的に政策やマニフェストを話し出している。様々な拡声器での演説を聞いていると、あのC区の霧島インダストリー社にいた白いスーツの20代の男が選挙カーの屋根の上で人々に手を大きく振って宣言していた。
その男は興田 道助という名だった。
興田 守の息子だったのだ。
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