第49話
藤元が空からやってきた。
「晴美さん。やってきましたよ」
藤元は神社なんかでお祓いに使う棒を振り、おまじないをした。
「身辺警護は、これで大丈夫。でも、僕もここにいるね」
藤元はそう言うと、応援席からかなり離れた場所にいる美人のアナウンサーに手を振った。
「藤元がオッケーです!! 何のことか解らない人ごめんなさい……」
美人のアナウンサーはピンクのマイク片手に頭を下げる。
「さあ、後3周でこの勝負が決まりますね……」
美人のアナウンサーも緊張してきたようだ。
「うーん。日本の将来がかかっているんだけど、それでも負けるよりは勝ちたい!! そんな気持ちですね。 今までの走りっぷりからみんなの苦労が水の泡なんて考えたくないじゃいですか……。でも、みんなは日本の将来のために走っているんですよね。以上、私だけの感想でした」
4周目。
僕の前には未だフェラーリ F12ベルリネッタがいた。
なんとか追い越さなければならない。冷静さを削るほどのプレッシャーを感じたとき、河守が僕の中で笑った。
心地よい笑いで、僕の口にも自然と笑みが感染した。
僕はコーナーが迫って来たが、微笑んでいた。
アクセルをハーフアクセルにした。文字通りアクセルを半分だけ踏むことだ。減速をして、コーナーでインした。
相手のフェラーリ F12ベルリネッタも僅かに減速した。
だが、ブレーキング速度がほんの僅か遅らせていた。タイム短縮の手段だが、僕はカーブのところで速度を振り絞った。
フェラーリ F12ベルリネッタはアウト側だが、イン側の僕と並んだ。
フェラーリ F12ベルリネッタがアンダーステアを起こした。アンダーステアとは、車がハンドルを切っても思うより曲がらないことだ。
スローイン・ファストアウト。
コーナーの出口は当然、ストレートだ。
だから、初速をいかに上げるかが勝負だ。
僕はコーナーから出ると、初速を上げた。
「おっーーと!! 雷蔵選手!! ノウハウのフェラーリ F12ベルリネッタを追い抜いた!!」
竹友は叫んだ。
「これは驚きです!! ノウハウと車の性能を上回った瞬間です!!」
斉藤は興奮して、立ち上がった。
「性能を上回ったんですか!! 人間が!!」
竹友はマイクをあさっての方に向けていることに気が付かなかった。
「ええ……。奇跡です……。後は雷蔵氏がブロックをしたまま。ゴールへ行ければいいのです。けれども、先に5台の車がゴールしなければいけないので……。勝負はまだ決まりませんね」
斉藤は無意識のうちに拍手していたが、顔が曇り出した。
「雷蔵さん……」
晴美さんは真剣な眼差しをして、応援席の一角で泣いていた。
「矢多辺……」
夜鶴は晴美さんの肩に手を置いて、このレースを観戦していたが、それは晴美さんのボディガードをしてもいた。
「雷蔵さん……凄い……」
河守も九尾の狐とアンジェたちと観戦をしているが、うまく言葉が出てこないかった。
「うーん……。まだまだ、これからなのがこの試合の怖いところだね……」
藤元は神社なんかでお祓いに使う棒を振り独り言ちた。
僕は6週目へと突入した。
フェラーリ F12ベルリネッタはブロックしているから、なんなく僕はレーシング場を走り回れる。
もうすぐゴールだ。
前方にコントロールラインが見えてきた。
「雷蔵選手!! ゴール!!」
竹友がランボルギーニ・エストーケを見送った。ここはゴール地点の近くにある。
「でも、フェラーリ F12ベルリネッタもゴールですから……」
斉藤はふと我に返った。
「そういえば……日本の将来がかかっているんですね……この試合は……」
竹友が斉藤を見つめ、
「ええ。確か、興田 道助が勝つか奈々川 晴美が勝つか。当然、日本国民はレースに勝ったチームに投票しますし……斉藤さん。今、気が付いたのですが……。興田 道助のエレクトリック・ダンスという政策は機械のノウハウが5千万人の老人を介護するのですよね。そして、A区が全面的に協力してくれるという。…………」
竹友がマイクを握り、
「一方。奈々川 晴美の政策ではノウハウを一家に一台。無料で提供し、私たちの介護や援助のサポート的立場を保障する。当然、国がノウハウのお金などは負担するという」
斉藤はこっくりと頷いて、
「二人とも私たちの老後のことを考えています。けれども、ノウハウが人間のサポートをするか、それとも人間をノウハウが……管理するかですね」
そこまで言うと、斉藤は大きく目を開いた。
竹友も驚いて口を開いた。
「三年前と同じだ!! 三年前の野球の試合とまったく同じ戦いです!!」
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