第48話 人間としての未来へ

「藤元!! 現奈々川首相のところへ行け!! 番組は私に任せろ!! 絶対いいところだけを中継してやる!!」

 美人のアナウンサーは護衛に藤元を向かわせる。

「ハイっす!! 頑張ってね!!」

 藤元は空を飛んで、晴美さんがいる応援席の一角に向かった。


 3週目。

 原田と淀川と山下と津田沼はまだ、2週目だ。

 コントロールラインまで、相手のノウハウの妨害に四苦八苦していた。

 全長12メートルのトレーラーは、かなり改造されていて、時速300キロはでる。10tトラックもそう。原田はあくせくしていた。

 死ぬ思いで体当たりをするか、死ぬ思いで間を走り抜けるか。スリーワイドの挟まれた状態で考えた。

「藤元さん。すまん。また御厄介になります!!」

 原田はアクセルを踏み切った。

 時速320キロで象の間を走り抜ける。

 相手は象だ。

 こちら側に近寄ってきた。

 原田は目を瞑ったが、いきなり落雷が落ちた。

 落雷は両脇の全長12メートルのトレーラー二台と10tトラックに直撃し、燃え上がると横転していった。

 空には藤元が手を振っていた。

 淀川と山下もアクセルを踏み切ってストレートを走り出した。


 広瀬と流谷と遠山は3週目だ。

 フェラーリ F12ベルリネッタとリーボックスカイラインのノウハウたちと戦っていた。コーナーの手前、遠山は上級ドリフトをし、流谷と広瀬は素早くカーブをしインした。

 ストレートで三人はアクセルを踏み切った。

 だが、フェラーリ F12ベルリネッタはその速さで遠山たちを追い抜いてしまった。


「あ!! 凄いスピードですね!! ノウハウの乗ったフェラーリ F12ベルリネッタ!」

 竹友は愕然とした。

「ええ。……時速380キロですから……」

 斉藤が真っ青になった。

「時速380キロですか!?」

 竹友も青い顔をする。

「C区の改造技術とノウハウのプログラムは侮れませんね」

 斉藤の目線はフェラーリ F12ベルリネッタに釘づけになった。


 僕は風だけを感じているだけではなかった。

 多くのプレッシャーも感じていた。

 先頭を走るにはそのようなものも背負わなければならない。

 後続のノウハウの乗ったスカイラインが二台。

 このままの調子で、走り抜けられるだろうか?


「おーっと、雷蔵選手の後からフェラーリF12ベルリネッタとトミカスカイラインターボが迫ってきましたね」

 竹友が驚く。

「ええ、時速390キロですね」

 斉藤はそう言うと、ストップウオッチを見た。速さ・時間・距離を頭で計算した。

「もうそろそろです……」

 斉藤は呟いた。


 僕の前を二台が追い抜いた。

 フェラーリ F12ベルリネッタとトミカスカイラインターボだ。ランボルギーニ・エストーケの性能を一時上回ったのだ。

 今はストレートで時速380キロを振り絞っているのだが……。

 僕はアクセルを踏みきり、テール・トゥ・ノーズを仕掛ける。前方の二番目のトミカスカイラインターボの後ろにピッタリとくっつくことだ。フェラーリ F12ベルリネッタは一番前を走っている。

 テール・トゥ・ノーズでは相手にプレッシャーを与えて、ミスを誘発する方法だ。インに車を(フェイントだが)振る仕草をし、相手がブロックラインをとった後アウトをそのまま走る。

 ノウハウがブロックラインをとった。フェイントが効いた。

 僕は時速390キロでアウトを走った。


「雷蔵さん……。頑張ってください」

 晴美さんは、先が見えない悪戦苦闘の最中、不安な心を落ち着かせた。

 このレースは3年前の野球よりも難しい。

 何故なら、相手は自動車に乗ったノウハウだからだ。

 自動車の性能とノウハウの性能と戦わなければならない。

「晴美様~~。大丈夫ですから~~」

 ヨハは晴美さんに向かってにっこり微笑んだ。

 応援席では人々はこのレースに誰もが熱狂しているが、日本の将来のことを考えている人は少なかった。



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