第50話

「晴美さん!! 試合はまだ終わっていない!!」

 僕は応援席の晴美さんたちの袂へと走って戻ってきた。

「ええ……。そうですね。その通りです」

 晴美さんが僕の顔を見つめた。

「雷蔵さん。あなたの戦いは人間の戦いでした。人間の力でノウハウを倒したのです……これから、私たちがしなければならないこと。それは人間性で機械に勝つことです」

 僕は河守に笑顔を向けて、

「ええ……ええ…………そうですね…………」

 僕は泣いていた。


「あ、田場選手と島田選手が6週目です。未だに周囲のノウハウの乗る車を寄せ付けません」

 竹友が不思議がった。

「ドライビングテクニックがいいのです。周囲のノウハウの車は体当たりをして遠ざける。まるで、この無法レースを最初から得意としているみたいですね。その精神と腕で今まで走り抜いている。本当に……島田と田場はこのレースのためだけに生まれてきたみたいですね……もっとも……適正があるだけかも知れませんが……」

 斉藤は微笑んだ。


 島田と田場がそのままコントロールラインを鬼の形相でゴール。

 後、二台。僕のチームの車が入れば勝利だ。

 だが、相手も三台のノウハウの車がゴールしてしまっている。

 後、二台。どちらかの車が先にゴールすれば決着する。


「斉藤さん。今、一番ゴールに近い車は?」

 竹友が斉藤に首を向けた。

 斉藤は素早くレーシング場を見回し、

「原田選手かペンズオイル ニスモーGTRですね。後、ニスモ GT-R LM。カルソニック スカイライン。流谷選手と遠山選手ですね」

 斉藤はストップウオッチを見つめて、

「二番目が津田沼選手と山下選手です。でも全長12メートルのトレーラーのブロックじゃ、どうしようもないでしょう。三番目が淀川選手です」

「先頭のCチームはゴールをするためにと、その車を用意したようですね」

「ええ。そうでしょうね。改造をしていますし、かなり早いですね。おや?」

 斉藤は原田の乗るスカイライン クロスオーバーを見た。


 原田はスピンをした。

 相手のニスモ GT-R LMが体当たりをしたのだ。

 その後ろを走る。トラックによって流谷と遠山もスピン。

 ノウハウの時速300キロはでるトラックは妨害作戦をしだした。


「この勝負に勝つんだ!!」

 角竹は作業班にしわがれた声を振り絞る。

「ええ……大丈夫ですよ。ノウハウには高度な思考ルーチンもあります。富田工場の最新データをアップデートしてありますから。妨害からゴールまで、人間よりも賢く攻め続けます」

 茶色い作業服の男は少しだけ余裕を見せる顔をした。

「そうだといいが……」

「父さん。奈々川 晴美の暗殺。やっぱりそれもこの際は強化したらどうだい?」

 道助は真剣な表情で言葉を噤む。

 興田は何も言わなかった。

 そして、更に、

「日本の将来は俺が立て直す。その言葉は小さい頃から繰り返していた。それが、今は実現っていう魅力ある現実を手に出来るんだからさ。これからもエレクトリック・ダンスを進めるために勝負にも勝って、奈々川 晴美も消さなきゃ」

 道助は幼少時から日本の衰退ぶりを落胆していた。そして、政治家の道を歩んだ。

「道助くんの言う通りだ。興田くん。あの手を使おう。満川くん。もう一体のノウハウを応援席に潜ましてくれ」

 角竹は満川の方を向いた。

「はい……」

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