第51話

 応援席にテレビ局のカメラマンが撮影の準備をした。

「ここから、見えますのが……Aチームの応援席にてございます」

 美人のアナウンサーは晴美さんのいる応援席で、藤元とタッグを組んで、放送していた。

「ハイっす!!」

 藤元は晴美さんを面前に据えて、神社なんかでお祓いに使う棒を振り熱心にお祈りしていた。

 晴美さんはカメラに向かって、ウインクした。

 アンジェたちが一瞬緊張した。

「晴美様!! 何か変です!!」

 アンジェは向かいの応援席を調べた。

 高度な対人データ解析をしていると、一体のノウハウがロケットランチャーを隠している姿が瞳に映った。

「ヨハ!! 敵がいます!!」

 アンジェはハンドガンを抜いた。

 だが、一発の砲弾が放たれた。

 砲弾は一直線に晴美さんの場所へと吸い込まれる。

 夜鶴がコルトを抜いた。

 砲弾の中心に弾丸が命中すると、恐ろしい爆風と熱が応援席の一角を襲った。

 ヨハとマルカとアンジェがその脅威の前に立ちはだかった。


「あ!! 応援席にノウハウが爆発物を撃ったようです?! 斉藤さん。爆発しましたね……?」

 竹友は東側の応援席に目を凝らした。

「あそこは、奈々川 晴美がいるところです。何が起きているのでしょう?」

 竹友はノウハウの脅威はこの時代。どうすることもできないことを知っていた。

「警察沙汰ですが、証拠がないんですよね。今は奈々川 晴美が無事なのを信じて、レースを続行していましょう」

 斉藤は訝しんで、

「犯人というか興田 道助チームでしょうが、ノウハウは誰でも操作できますし、プロフィールデータしか、痕跡を残しませんからね。今の時代はノウハウが怖いならこっちもノウハウを使うという時代です。私たちは無力でもあって、力持ちでなんです。こんな色々とあるレースは私も初めてだな……」


「やった!! これで、いい。」

 角竹が満面の笑みで答えた。

 応援席の周辺のマスコミたちは、こぞって晴美さんの居場所へと向かっていった。

「これで、この勝負は勝ちだね……これから、C区が日本の未来を変えていくのだろう」

 道助は興田の肩を叩いては、レースをもう取りやめようかと考えた。

 しかし、興田と満川は訝しんでいた。

「道助? ロケットランチャーより強いものは何だ?」


「何しやがんだー!!」

 美人のアナウンサーは起き上がると、叫んだ。

「みんな無事か?」

 僕は起き上がった。隣の倒れていた夜鶴が立ち上がり、真っ黒になったアンジェが抱きかかえている晴美さんの方へと向かうと、晴美さんは気を失っていた。

 僕は晴美さんの無事をアンジェに早く確認したかった。

「雷蔵様。外傷も何もありません。晴美様は無事です。ご安心下さい」

「アンジェ……よかった……」

 応援席の一角は少し離れた観客たちや黒服も無事だった。

 煤ぼけたマルカが倒れたヨハを看ていた。

「ヨハ……。大丈夫なのか?」

 僕はマルカに言うと、

「みんな無事?」

 芝生の上で伏せていた河守が立ち上がり、辺りを見回した。

 九尾の狐も伏せていた。

 爆風も熱も一切こなかった。

「ヨハ……」

 マルカは煤ぼけて壊れたヨハの頭部を撫でた。

「ヨハ!!」

 僕はヨハの規格外の頭部に大きな損傷があるのを見て、真っ青になった。修理は不可能なのだ。

 僕はすぐさま向かいの応援席に向かって、デザートイーグルを抜いた。

 一発の銃声の後、向かいのノウハウが青い火花を飛ばして倒れた。

 美人のアナウンサーと藤元。放送局の人々も無事だった。

 美人のアナウンサーはすっくとピンクのマイクを突出し、藤元に吠えた。

「藤元!! 機械も直せ!!」

「無理かもしれないけど……了解ッス!!」


 そうこうしているうちに、原田とニスモGTR LMが一騎打ちをしていた。

「雷蔵さん。見ててください!!」 

 土煙をまき散らし、滅茶苦茶なスピードで原田はストレートを走り抜ける。サイド・バイ・サイドからコーナーに入ると、ニスモGTR LMがアウト・イン・アウトをした。原田は上級ドリフト。 

 サイド・バイ・サイドとは、二台の車が横一線に走行することだ。

 再びインの場所に僅かながら原田の速度に軍配が上がった。

 そのままコントロールラインへと向かう。


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