第3話

 今日も夜の七時に会社が終わり、様々なネオンが照らすビルディングの谷間から、帰宅の道を黄色のスポーツカーで走っていた。夜風がもう11月だということを悟らせるくらいに、厳しい寒さへと変わっていた。車の名はランボルギーニというんだっけ。4座席のエストーケ(イタリア語で闘牛剣という意味)という僕の20台ある車の中で、一番気に入っている車だった。

 自宅は云話事ベットタウンの西側に位置し、A区から一番遠い場所にある。昔は治安が相当悪かったのだけど、前にアンドロイドの「ノウハウ」が治安改善に全力で取り組み。今では夜道に酔っ払って寝ていても明日の朝には太陽が拝めるほどになった。


 僕の家は103階建ての云話事帝都マンションの34階から66階だ。

 原田は67階に住んでいる。

「お帰りなさいませ!!」

 玄関を開けると、スーツ姿の使用人たちが僕の帰りを待っていた。一見、秘書のように思えるけれど、秘書ではない。ただ……。

 みんな可愛らしい顔立ちだ。

 女の人たちだけれど、実はアンドロイドだ。家庭用でもあって防犯にも適していた。


 数年前に他のボディガードと一緒に特注で揃えたんだけれど、治安がよくなってからは家庭の世話をやいてくれるだけとなった。今は人間のボディガードは誰も雇わない時代になった。

「夕食は何になさいますか?」

「いつものように」

 僕は3体いるアンジェ、マルカ、ヨハに言った。

 34階はキッチンルームだ。大きな厨房とレストラン並みの広いテーブルが複数。

 その上には一階ずつにバスルームやトレーニングジム、バー、リビングルーム、和室などがあって、それぞれ45畳の広さがある。

 アンジェは長く赤いスカーフを首に巻いてあって、短い茶髪で小さい顔が印象的なアンドロイドだ。マルカは大きな黄色のリボンのついた長髪で黒毛だ。高身長のヨハはブルーのショートカットで、緑のネクタイのように首から下げている。

 みんな20歳くらいの年齢の容姿で、ブルーのホットパンツとチュニックという格好だ。

「また~。いつもの~お肉ですか~」

 ヨハが間延びした声を発した。


 輸送中の事故で修理を頼んだら頭部だけは、規格外だった。

「ああ。それと食後に、僕の部屋にいつものジントニックを持ってきてくれ」

「かしこ~まりました~」

 ヨハたちがキッチンへと向かう。

 僕はキッチンルームから56階の寝室へ私用のエレベーターで行くと、ライトグレーの広いクローゼットへと向かった。そこで、スーツを脱いでナイトガウンに着替えると、今度はまたエレベーターに乗って46階へと行く。

 そこは少し広いシャワールームだ。

 僕はそこで裸になると、一日の疲れをとった。

 しばらく、室内にしっかりとした事務的な声が響いた。

「雷蔵様。ハンバーグステーキができましたのでお早めにお上がりください」

 階下のヨハの声だ。


 ヨハは間延びした故障が目立つ時と、しっかりとした時があるアンドロイドだ。

 三人のアンドロイドには色々な機器が内臓されていて、その一つに僕の家の全室内のスピーカーに音声を出力することができる機能がある。

 僕はバスルームからでると、冷たいシャワーを浴びた。

 再びエレベーターに乗るとキッチンのある34階へと降下する。

 機能的で大きなキッチンはその他の階にもあるにはあるが、僕はいつもは34階を使っていた。


 機能美のある広いキッチンで一人で食事をしていると、

「たまには、お野菜を取りませんと……」

 アンドロイドのリーダー、アンジェが心配そうに僕の顔を見つめていた。

「そうですよ。毎日お肉だけでは……。お野菜を取らないとお体に悪いですよ」

 マルカも不安気な声を発した。

「僕はあまり野菜は食べない」

「そんな~。体に~~悪いですよ~~」

 ヨハも心配してくれた。

 多量のビタミン剤を飲んで食事を終えると、後はエレベーターに乗って56階の寝室へと行く。パソコンを立ち上げて、ジントニックを飲みながら、仕事と雑用を片付けて就寝。

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