第4話

 朝。

 6時起床。

 寝室にあるバスルームで入浴。

 34階で朝食のコーヒーとハムカツのサンドイッチを食べながら、新聞を読んだ。

 新聞には奈々川首相が載っていた。昨日の可決されたスリー・C・バックアップの見出しだ。

 僕は溜息を吐いてテレビを点ける。

 キッチンの壁に設置してある大型のパノラマのテレビだ。

 

「おはようございます。云話事町放送Bです」

 テレビには男性のアナウンサーが、マイク片手に云話事マンハッタンビルのガラス張りの正面玄関にいた。

 周囲には大勢のマスコミが集まっていた。

「昨日、奈々川首相によるスリー・C・バックアップの可決がされ……」

 アンジェが二杯目のコーヒーを淹れてくれた。

「C区は元はと言うとB区の一部だったのです。6年前から様々な高度な技術を、前奈々川首相(晴美の父親)の意向により開発をしておりましたが、それはもともとはアンドロイドのノウハウの大規模な労働への導入を考えてのことだったのです。例えば工事や倉庫内作業や医療などの作業は、ノウハウのもっとも得意とする分野だったのですね……。ですが、ハイブラウシティ・Bは人間性を欠いたものへと変貌したと現奈々川首相の発言と行動によって、方針が是正されていきました。今ではスリー・C・バックアップは必要不可欠な社会貢献のためにと……ノウハウをより人間に近づけるために……」

 僕はサンドイッチのお替りをマルカに頼んだ。

 マルカはキッチンへと行くと、高速な包丁さばきでサンドイッチを作った。

 僕はチャンネルを変えた。


「おはようッス! 云話事町TVッス!」

 美人のアナウンサーがマイク片手に、云話事マンハッタンビルの正面玄関で、藤元と一緒にカメラの前に立っていた。

 周囲には人だかりになっていて、皆笑っている。

「おはようございます。はい、信者~~信者~~。どなたでも~~。お気軽に~~。きっと~~、来世で~~未来で~~いいこと~あるよ~~! 熱烈大募集中の藤元 信二です!!」

 藤元は神社なんかでお祓いに使う棒を振る。

「はい!! 信者の勧誘!! そこまでっス!! ていうか信者入っただろ!!」

「だって、少ないんだもん!!」

「そんなことより、仕事ッス」

 美人のアナウンサーは真面目な顔付きになると、

「6年前からC区は技術開発を――つまり、簡単にいうとノウハウをより人間に近い存在にすることが出来る技術を、C区は開発をしていたのです――」

 美人のアナウンサーの言葉は云話事町放送Bの男性のアナウンサーとほぼ同じセリフだった。

「ふーむ……」

 藤元は険しい顔で遥か天空を見つめていた。

 空は鉛色の雨雲が覆っていた。丁度、美人のアナウンサーの話も何やら暗い方向へと傾きつつあった。

「暗いですね……よし! 明るくします!」

 藤元は慎重に話している美人のアナウンサーの後ろで、神社なんかでお祓いに使う棒を両手で握ると熱心に振り回した。

 と、稲光と同時に突然の大雨と雹が降り出した。

「何しやがんだーーー!!」

 カメラに向かって話していた美人のアナウンサーは、瞬く間にびしょ濡れになった。

「すいませーん! 失敗みたいですー!!」

 藤元がテレビに向かって頭を下げた。

 周囲の人たちはマスコミの人たちと一緒に近くの屋根のある歩道へと駆け出し、美人のアナウンサーはピンクのマイクで藤元の頭を刺した。

 番組はそこで終わった……。

 

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