第16話

 喫茶店の店内は人が疎らで、コーヒーの匂いだけで落ち着く場所だったが、九尾の狐の指示で窓際には座らないようにした。奥のテーブルに向かった。

「周囲はノウハウが警戒しているわ」

 九尾の狐はそう言うと、コーヒーと砂糖を頼んだ。

 マルカは僕の隣に座り、ヨハは傍の丁度、僕が窓際から守られる位置に立った。

「雷蔵さんは、スリー・C・バックアップのことをどのくらい知っているの?」

 河守は正面に座ると、開口一番その言葉を口にした。


 河守の隣の九尾の狐は大き目のサングラスを外した。なるほど、目の辺りが河守にすごく似ている。

「うーんと、ノウハウを人間に近づけるための技術をC区が開発をした。それがC区の全面的技術提供案。スリー・C・バックアップの要……くらいは」

 僕がそう言うと、河守が辟易した。

「雷蔵さん。ノウハウ……つまり、国家規模のアンドロイドたちを人間に近づける技術は、どれくらい凄いと思うの? それこそ20億円でも安いわよ」

「?」

 九尾の狐は小型の端末を開いて見せ、僕の携帯を差し込んだ。支払った10憶の金が戻ると、九尾の狐が別の検索画面を写した。僕は気になった部分を見た。それには、こう書かれていた文があった。

「ノウハウに4千万人の老人の介護をさせる?」

「そう……C区は元々B区の一部で、前奈々川首相(晴美の父親)は老人福祉も視野に入れていたの。ノウハウが介入すれば、この国は安泰だということになるわね。何故ならお金があまり掛からないから……」

 九尾の狐はそう指摘した。

「うーん。それくらいのことだったのかな?」

「それだけじゃないわ。現奈々川首相(晴美)はこの計画には前々から反対していたの」

 河守が言った。


 確かに晴美さんならそうするだろう。


「変だよ。晴美さんは可決したはずだ。……それに、そんなことでは僕たちは襲われない」

「違うわ!」

 河守は急に真面目な顔をして叫んだ。

「この計画には裏があるの。エレクトリック・ダンス……。スリー・C・バックアップは表向きなの。……その裏では65歳以上のお年寄りを強制的に介護福祉を必要とさせることができる政策を打ち上げ。利益をA区から機械的に搾取していくことを目的として、この表舞台(社会)から老人を完全に排除していく。そう、社会から隔離をして利益を自然に生み出すための研究所にしてしまう計画。それが、エレクトリック・ダンスよ。そして、もう一つ……可能性として高いのは……現奈々川首相の暗殺よ」




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