第14話

 素晴らしい食事の後。


 外は雨から雪になっていた。

「なあ、何か起きたんだろ。なら協力出来るんじゃないのか?」

 島田は食い下がる。

「いや、命の危険があるんだ」

「大丈夫だって、藤元がいるんだぜ」

 弥生がニッコリと微笑んで、

「何か危険なことが起きたら、すぐに言ってね。うちの旦那も私も協力するから。すぐにすっ飛んでいくからね……」

 心配げな弥生が好戦的な島田を青緑荘へ連れて行くと、僕は非合法なことをしているんだったと、今になって気が付いた。スリー・C・バックアップの横流しをしようとしているんだった。

 僕は一体?

「雷蔵様~~。そんな険しい表情~~。初めて見ました~~? お加減いかがですか~~?」

 ヨハの間延びした声が聞き取りにくくなった。

 河守 輝の言葉が頭に響いた。

(因果応報という言葉……知らないの。……悪いことを密かにしていても、いつかは日の目にでるものよ……)

 

 晴美さん……。

 僕は君を……。

 因果応報か……。

 今ではその言葉が怖くなった……。

 でも、僕はどうしてもお金がほしいんだ……。

 僕はこれからどうしたらいいんだ……。


 気が付くと、黒いベットの上だった。

 藤元の家の二階のようだ。隣のベットから藤元のいびきが聞こえる。近くに立っているヨハが僕の顔を覗いていた。

「雷蔵様~~。心をどこかに忘れていました~~です。大丈夫ですか~~」

「ああ……なあ、ヨハ」

「はい、なんでしょう?」

「僕はどうしてスリー・C・バックアップのデータを、10憶で買おうとしたのかな? お金なら一生困らないほど持っているのに……」

 ヨハはニッコリとして、

「私には解りません~。でも、雷蔵様がそうおっしゃるのなら~。答えは~~、他人に聞きましょうよ~~。人間は~~例え他人でも普通の人間ですよ~~。答えを持っている人も~~居ると思いま~~す」

「はっ、はは……。そうだね。その通りだね……」

 僕は急に恥ずかしくなった。

 そうだ。誰かに聞いてみよう。

 スリー・C・バックアップのデータ。将来で莫大な大金になる可能性をはらんでいるが、日本を窮地に陥れるかも知れない危険なデータだ。そんな大きな天秤で測るような考えなら昔から僕は何の躊躇もせずにしていたはずなのに……。でも、こんなに苦しいのなら……誰かに聞いてみよう。

 僕はその時になって、河守の笑顔が浮かんだ。

 なんとか美人の範囲に入っている顔をして、スタイルも並。僕の遊び友達の女の子たちより、全然普通で……。でも、どこかがいいと思える時がある。

 そう、捨てたものじゃないと思える。


 河守……。


 朝になると雪が積もっていた。

「よーし、何か食べに行こう!! 番組まだ大丈――夫!!」

 藤元の大声が一階から響いた。

 僕は5時に起こされた。

 それから、入浴を10分だけして、玄関へ向かうとヨハと藤元が待っていた。

「今日はコンビニの流谷 正章さんにスーパーアタッーク!! 彼、今もう働いています!!」

 藤元は神社なんかでお祓いに使う棒を振って、先頭を歩いて行った。

 足元の雪が冷たさを靴に滲ませた。

 僕は何だか新鮮な気持ちになった。

 まるで、初めて大好きな車に乗った時のようだ。

 そういえば、僕は流谷にも酷いことをしたんだった。

 コンビニに入ると、店内の明るさに驚いた。雑多な品物が所狭しと立ち並ぶ棚に置かれてあり、流谷ともう一人の男性が店番をしていた。僕の顔を見ると、流谷は一瞬はっとしたが、すぐにニッコリと笑って、

「フライドチキンいかがですかーー!!」

 元気良く言ってくれた。


 早速ヨハがレジに行って、フライドチキンを買った。マイナンバーカードはA区でも使える。普通A区は現金が必要なのだが、生憎僕たちは持っていなかった。

「雷蔵様~~。一本おまけして下さいました~~」

「あ……ありがとう。その……前は悪かったね」

 流谷くんはニッコリ笑って、

「もう忘れました!」

 流谷 正章。20代で中肉中背のフリーターだ。

「ハイッ、野菜も取る!!」

 藤元がコーン入りのサラダパックを僕の前に突き出した。

 ヨハは大喜びでサラダパックを受け取ると、僕の選んだとんかつ定食を持ってまたレジへと向かった。

 それぞれ朝食を買うと、藤元の自宅へと戻る。

 藤元はチキンカレーを買った。そして、温めてもらってきた。

 僕は何故か新鮮な感覚を覚えた。

「ありがとうございます。藤元さん」

 まともになったヨハはスキップをしていた。

 食事の後、藤元が番組だと言って出掛けた。

 ヨハがしばらくすると、キッチンにある真っ黒いテレビを点けた。

 

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