第2話

 天幕の隙間から見える奥の方には、何やらとてつもなく巨大な爬虫類の姿が垣間見えた。


「まだまだじゃな。もっと、多くの生贄が……。ルゥーダーよ。解っておるな。少年や少女。とにかく、若い生贄がほしい。若ければ若いほど。まだ目覚めんのじゃ」


「解った。今日も二グレド族の村へと行こう。この村ではもう子供の生贄を出し過ぎたようだ」


 カルダのまるで呪詛を言うような口調に、無言で祭壇で佇む端整のとれた顔のルーダーは力強く頷くと、ビクビクと動く少年の心臓を鷲掴み、地面に放り捨てた。


 二人の若者は動けなかったが、助かったという一時の希望がその青い顔を明るくさせ。カタカタと奇怪な音が口から漏れ出していた。


 カルダにルゥーダーと言われた男は長身でがっしりとした体格をしていて、なかなかの好青年だった。松明を持って隣村まで歩いていく。村の若者でも歩いていくと一日半かかるが、ルゥーダーは何故か僅か数分で辿りつけた。


 ルゥーダーは猛獣の気配のない森を早歩きで進む。いくらか、明かりがあればいいのだが、生憎と夜の森。光源は星空と赤くなった月、それと手に持った松明だった。

 それから少し経って隣の村へと着くいた。

 そこは熱い朝日の照らす二グレド族の村。やはり、カルダの村から外へと出ると、朝があった。


 そこの村人は周辺の村よりは活気があり、生活の音やどこからか子供たちのはしゃぎ声が木霊していた。しかし、ルゥーダーが現れると村人たちの目は恐怖と警戒の色をした。


「カルダ様は生贄を欲している! 出来るだけ若い者をだ!」


 ルゥーダーは広場の中央まで歩いていくと、誰かを呼ぶ。その声はシンと静まり返った村に行き渡り、それを聞いた村の奥から長老らしき人物が二人の護衛と一緒に俯き加減で現れ、ルゥーダーと対面した。

長老らしき人物は早口に捲くし立てる。


「今度は何を? わしらの村は昨日、少年を二人も犠牲にして……。もう勘弁して下さい!お願いですじゃ! 子供たちが死んで、わしらが生きるのはとてもつらいことなのです!」


 長老らしき者は涙を流して、ルゥーダーの顔色を恐る恐る窺っていた。その目は怯えきっていて、二人の屈強な護衛もどこか極度の緊張のために体を強張らせている。


「では、こうしよう。複数の赤子の生贄をもらう!」


 ルゥーダーは全く動じない。眉ひとつ動かさずに大声で言い放った。冷たいがよく通る声だった。


 二グレド族の村人たちはそれまでの生活を一旦止めて、一斉にこちらを見守る。怯えたように……。


「逆らえばどうなるのか解るだろう……皆殺しだ。だが、カルダ様は寛容なのだ。赤子を三人だけで今日の生贄は十分だと言っている……どうだ」


「う……赤子を……何と! 酷い事を!」


 ルゥーダーの脅しに長老は涙目で重く頷き、二人の護衛に指示をだし、周辺の使い古した天幕から親のいない元気な赤子を三人抱えて来た。


「……もうわしの村はほっといてくれ! こんなことはたくさんじゃ!」


 長老は堪らず涙に濡れた顔を覆った。しかし、ルゥーダーは一切意に介さず、軽々と泣き喚く赤子を三人、片手で無造作に抱きかかえ歩き出した。


「お願いだ! わしの村だけでも村人の安全な生活を守ってやってくれ!」


 ルゥーダーは振り向かない。


「お願いだ! 助けてくれ!」


 長老はついに蹲くまった。この村からの生贄はそれから更に増えたという。


 ルゥーダーの抱えている赤子たちを見送る少女が長老の傍に寄って来た。


 こんな残酷な出来事を少女が慰めるかのように……。


「あのね、長老。私、空が見えるの……」


 少女が長老にその小さな唇を寄せて囁いた 。


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