第52話 最後の仲間

7月?日


 何とも過激なデートを終えて、私たちは私の根城、ボロアパートに到着した。


「こんなことなら、宝くじでも引いていればよかったわ。当たれば南米にみんなとすぐに行けたのに」


 別れ際に呉林が疲れで力なく呟いていた。お金は、残念だが労働の代価だ。といっても、呉林なら当たるのでは?


「赤羽さん。やっぱりあなた凄いわ。怪我がもう治っているし、それに、あれだけの体験をしているのにもう平静になって。私の見立ての通りに立派に七番目の段階に覚醒して……見るのは初めてだけど」


 霧画が少々涙目になって、私の両肩をまるで子供を相手にするように摩った。


 私は呉林姉妹にもう少しいてもらいたくて、引き留めた。もう少しこの二人から情報を得ようと思ったのだ。解らなくて不安なところが多すぎる。解ったとしても不安だったりして……。それと、キラーの情報が欲しい。呉林姉妹は不思議な直観によって、これからはキラーが出ても大丈夫だと思っているのだろうか? 私の力があるし。けれど、どうしても今聞いておきたかった。


「今、お茶を淹れるから。どうぞ入って下さい」


「あ、あたしが淹れる」


 呉林姉妹を家に招き入れると同時に、安浦が本領を発揮する。


 まさか、お茶も美味くなるのだろうか……?

 質素な角材のテーブルには長椅子が二つしかないので、私と安浦は近くにある安物の簡易ベットに腰掛け、力なくお茶を啜った。


 4人ともひどく疲れていた。それと、私は疲労感だけ残っているが体はなんともない。


 私はお茶を啜り、


「渡部は大丈夫なのかな? 病院って、まともな人たちがいるのかな? そして、角田も?」


 誰にともなく言うと、


「それは大丈夫よ。病院は何も危険がなかったの。私も超能力的直観があるから解るの」


 霧画が優しく答えてくれる。恐らく、その能力は呉林よりも高いのだろう。


「それより、二人は付き合っているの?」


 霧画が唐突に私と安浦に聞いてきた。


「はい。ご主人様と二人で頑張っています」


 呉林は少し首を垂れたが、すぐに上を向いて「負けないぞ!」と大声を発した。


 私はそれを聞いて頬が赤くなった。


「そう言えば赤羽さんはまだ働いているの?」


 ひらりと霧画が呉林と安浦の間に割って入り、別の質問へと変えた。


「ええ。そうですが、何か?」


「何度も言うようだけど、あまり無理をしないで、この世界でも疲労や怪我は怖いわよ。それと、赤羽さんの会社……何か変な感じがするのよね。危険って訳じゃないけど」


 私は田戸葉が自分は正社員ではなく、社正員ですと言っていたのを思い出す。


「確かに……。何かは解らないけれど、可笑しいですね。前は5年間も働いていたエコールという会社だったんですが、突然セレスという会社になっていて。後、谷川さんがいない……。どうなってしまったのかな」


 私はふと、谷川さんのことを心配した。


 霧画は空になったお茶をテーブルに置くと、


「うーん。それもこのねじ曲がった現実の影響かもしれないわ。でも、お金は本物だから、危険がないと思うし頑張ってもいいと思うわ。勿論、そのお金で南米に行けるし、消えてしまったりはしないわ。それと、その田戸葉っていう人、目元はどう?」


 私は即座に、


「大丈夫でした。暗くなっていません」


 安浦が急に立ち上がった。その拍子に安物のベットが激しくバウンドし、お茶がこぼれる。


「あちち!」


 私は顔をしかめる。


「みんな食事にしましょう!」


「って、4人分の食材がなじゃないか。カップラーメンかコンビニ弁当にするしかない……」


 私は勢いをつけた安浦を制止しようとした。

 

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