第53話
「カップラーメンばかり食べると栄養偏りますよ。大丈夫ですよご主人様。食材なら!」
安浦はそういうと真っ白のキッチンにある冷蔵庫を開ける。中には……。
「わあー。一杯あるわね……胡瓜?」
呉林は一瞬何かを期待して歓声をあげたが……胡瓜だけが冷蔵庫に所狭しと入っていた。
「あれ……?」
胡瓜を見る安浦も? の顔をしていた。
「あたし、胡瓜なんて買ったかしら?」
安浦はしきりに首を傾げている。あの……私の家の冷蔵庫を勝手に占領しないでくれ……。私は心の中で懇願していた。
「これもねじ曲がった現実の世界のせいなの!」
安浦は憤りをしんしんと溜めている顔で霧画に向かって声を発した。
「ええ。そうかも知れないわ。でも、いったい何を買ったの。それが解れば理解しやすいわ」
霧画は落ち着いて対応しているが、内心はひやりものだろうか。
「ええと、ケイパー、アンチョビーとオリーブの実、それとプチトマトとリングィーネ。後、赤とうがらし、ニンニク」
私は空腹に負けて安浦に同情した。
どうやら、プッタネスカを作ろうとしたのだろう。
「そんなに色々と買ったの。それが、あっという間に……。あ、やっぱりごめんなさい解らないわ。でも、それは夢の侵食のせいみたいよ」
霧画も呉林も頭を抱える。
「やっぱり、姉さん。この世界でも侵食や歪みがひどくでているの。それも私たちの身の周りで起きているみたいだし」
「そうみたい。私はこんな体験はさっきしかしていないけど……。その事象に何か邪悪な意図があることが解るわ。今は胡瓜だけど……」
「キラーが出たのはやっぱり、なのね」
「そうみたい」
話が一連の夢に関係してきた。ここで、詳しく聞いた方がいいと私は身構えた。
安浦も今度は食材が関係したせいもあって……真剣に聞こうとした。
「霧画さん。キラーって。俺たちはやっぱり誰かに狙われているんですか?」
私は不思議と怖さが薄くなっている頭で彼女に身を乗り出して聞いた。
「そうよ。恐らくこういうような体験を連続しても、生存率が高いのがシャーマンに気が付かれたみたいなのよ。シャーマンは私たちをキラーで殺そうとしているみたいね。キラーとは……恐ろしいけど、金で雇われているの。そして、人殺しに特化しているわ」
「金で……それはひどい……」
今まで必死に生き延びてきたのに、金まで払って殺そうとしているシャーマンに私は憤りを感じた。そういえば刑務所でのテレビ頭はキラーなのだろうか?
「違うわ。テレビ頭はお金で雇われていないからキラーと区別するの。でも、どこかに金銭が関係していると思うわ。異界の者は金銭が絡むと特殊な姿形で夢の世界に現れるのよ。それと、恵ちゃんを追いかけたあの巨大なナメクジやフルフェイスもキラーよ」
呉林は私の心の疑問に受け答えしてくれる。不思議だが心を読めるのだろう。
「でも、よく聞いてね。私たちにはあなたがいるわ」
そう言って、霧画は私に視線を合せて、
「敵が気が付いても、赤羽さんがいるから危機といっても大した事は無いはず」
「でも、ぎりぎり勝っているって感じよ。姉さん?」
呉林はシリアスな事を言った。しかし、その顔は綻んでいた。
「ご主人様はもっと強いはず!絶対安心です!」
安浦は満面の笑みで自信を持って発言した。
「そうね、近いわ。でも、彼はまだ本当の覚醒というものをしていないの。覚醒をしたらこの世界をひっくり返してしまう程なのよ」
呉林と安浦は、それを聞いて眼を輝かせる。
私は正直……心許なかった。自分の力というより、奥のそのまた奥から、静かに誰かが声、叫びや力を送ってきているという感じだった。
「どうしたら、俺は本当の覚醒っていうのをするんですか? いや、出来るんですか?」
私の自信のない発言に、
「解らいわ。でも、何度もこんな体験を克服してるんだもの。今にきっと覚醒するわ。その日は近いはずよ」
霧画は自信に満ちた声色だが、何か考えているのか目を少し伏せて話している。
「はあ?」
私は残念ながら、そんなことを言われても、自信が湧くはずもない。
「あ、これは?」
霧画が何かに驚く。
私は空き過ぎの腹の虫が部屋全体に鳴る音を聞きながら、今夜は胡瓜か……。と、考えていると、空腹と疲労のせいか、意識が吹っ飛んだ。
「赤羽さん」
呉林の声が聞こえる。
「ご主人様」
安浦の声が聞こえる。
「赤羽くん」
角田だ。
「赤羽さん」
渡部。
「赤羽さん」
霧画さん。
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