第71話
谷川さん。きっと、カルダとルーダーを倒してみせます。必ず。
そうこうしていると、まず西の村の人達と出会った。鎧のようなただの看板のような板を体に巻き付けている。
「夢の旅人よ。一緒に戦えて光栄です」
西の村の戦士の代表と、その数、約千名が武器を振り回し、戦いの踊りをした。その光景はただただ壮大だった。夜の森を埋め尽くす人々。無数の松明の明かりに照らされた私と渡部、角田は、日本人らしく嬉しくて丁寧に頭を下げた。
少し行くと、次は東の村の人々たちと合流した。その数は約8百名あまり。こちらは分厚い毛皮を体に巻いている。聞くところによると、二グレド族の蒼穹の戦士より強いようだ。
今度は北の村の戦士たちと出会った。熊の頭を被ったその原始的恰好は、危険な猛獣狩りを専門にしているようだ。数は4百名余りだ。とても長い槍で離れた場所を攻撃することを得意とすると聞いた。
合間の食事の時間。
2千3百名くらいでの食事は黙々とこなされた。
角田と渡部は猛獣の肉を必死に食べていた。
「この戦いで死んだら。なんて、考えないことにしたよ」
角田は私に微笑んだ。
食事を終えると、また歩く。
「もうそろそうかな」
近くにいる角田は呟いた。体力があるのだろう。角田の剣だけ私たちより少し大きめだった。
私たちは先頭を歩いている。後ろからぞろぞろと蒼穹の戦士と、東、西、北の戦士たちが歩いていた。その歩き方は森を歩き慣れたものだった。
「もうそろそろです。頑張って下さい」
目をキョロキョロした木の棒片手のジュドルが隣に来た。
疲れた顔をしていない。
私と角田たちは森を歩くのは不慣れだ。すぐに足元が覚束ないほど疲れてしまう。ディオたちはまだ先だろう。
そうしていると、長い時間が消え去りやっと森が開けた。
森の間の広場だ。
ディオたちはトラップを幾つも作っていたのだろう。泥だらけになっている。延々と暗いところで作業をしていたようで、眠気が半端ではないようだ。目をしきりに擦っていた。
私と角田たちはディオの方へと向かう。
「ディオ? 食事はしたのか?」
ディオは首を振って、
「わしは大丈夫じゃ。乞食だからな。2・3日食べなくてもピンピンしておる。じゃが、穴掘りたちはどうじゃろう。堪えたかな……」
ディオはボロボロの赤いジャケットを叩いて、
「これくらいでいいじゃろう。恐らくカルダたちは罠を、わしたちが仕掛けていることも、無論知っているはずじゃ。しかし、カルダは黒い霧を使い捨ての様に思っておるはずじゃし、だからわしらの仕掛けた罠は目に入らん」
ディオは一呼吸置いて、木製のスコップの様なものを地面に投げ出して、
「どう出るじゃろう。5千8百体と呉林姉妹は言っていたが、黒い霧を無限に出せるのかも知れない……。あの勝ち誇った王者の顔は……しかし、単に好戦的だから早く戦いたいのかも知れんし」
「もし、無蔵蔵に黒い霧を出してきたとしても、俺の力で叩き潰せるのじゃ?」
私は自信を持って言い放つ。けれど、
「昨日も言ったが、それは赤羽くんが起きていないといけないのじゃろ」
ディオは頑と私の力を頼りにしてくれない。
「それは、そうだが。でもさっき霧画さんに呪いを掛けてもらったんだ。眠らないようにと」
ディオは自分の考えを頑なに、到底曲げることが出来ない人だった。
「うーん。あの呉林姉妹の力は、わしも認めている。が、しかし、カルダは400年以上も生きているのじゃぞ。果たして、凌げられるかどうか」
ディオは考えている様子だったが、
「では、赤羽くん。きみは戦闘の主力じゃ。きみは一人で先頭に立ってくれ。そして、その脇でわしらが戦う。丁度、Vの字の様な感じかな?敵も赤羽くんの力があるから、逆さになったVの字となる。この意味が解るじゃろう。きみがこの戦の主役なのじゃ。きみが寝てしまったら、みんな負ける」
私は自信を持ってこう答える。
「任せてくれ。けど、何か罠を作ったんだよな。大丈夫なのか」
ディオはにっこりして、
「大丈夫じゃ。この罠はきみを守るためにあって、それだけだ。味方は引っかからないようになっている」
それぞれの代表の数人の戦士が、ディオと私を囲む。二人の会話はみんな聞き逃すまいとしている。それもそのはず、この戦の戦局を左右することだからだ。
角田と渡部も耳を静かに傾けている。
角田と渡部にとってはディオは師匠的な存在なのだろう。
「敵襲!」
「敵襲!」
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