第47話

「つ・ま・り、ウロボロスの蛇とは、メルクリウスの蛇のことを言っていて、ウロボロスは永遠回帰。そして、連続性を表しているのよ。それを崩壊させると、世界が終ると言われているわ。具体的には、その蛇が自分の尾を飲み込み終わって頭を殺すと、それは太陽と月の両性具有の神でもあるのだから、恐らくこの世界は現実でもなく夢でもない世界になってしまうのよ。気楽に聞きましょうよ」


 呉林が優しく噛み砕いて説明してくれた。私は努めて気楽に聞くことにした。


「あ、それと現実の力って一体何ですか?」


 私はもう一つの疑問を聞いた。


「夢の世界は強力だけど、あなたの力と現実の世界も強いようよ。それは、あなたしか出来ないと思う。あなたは二度寝が苦手なのはそういうことなの。残念だけどみんなが出来るわけじゃないわ。そして、その私たちが普段生活している現実の世界は、実は強力な力があって、それは車にはねられたら死んでしまったりと、当たり前の力を神の力で生じさせているの。それは、簡単に言うと神の現実の行使力によって私たちは夢の世界から守られているの」


 霧画の重大発言。


 つまり、この世界の現実と言われているものは、神の力でそうなっていて、本当は起こり得ないものだというのだ。私は気楽に聞けなくなった。正直、どうにかなりそうだった。


「それと、私たちの他にももう一人赤レンガの喫茶店で、コーヒーを飲んだ仲間がいると思うわ。それであなたは、恐らく七番目の人でもある」



「はあ?また七番目……。俺たち以外、つまり、霧画さんも含め渡部や呉林たち以外の人もオリジナルコーヒーを飲んだんですか?」


 私はこんがらがる頭で質問をした。


「そうね。私たち以外にもいるわ。そう世界中に。呪術を施されたコーヒー豆は大量にあるの」


「その中で俺が七番目……」


「そうよ。笹井さんが一番最初にコーヒー豆を貰って、今になるまで長い間温存していたのよ」


 隣の席の霧画は重大なことを落ち着いて話してくれた。

「世界中の人たちも含めてもあなたが七番目なの。七番目という強い呪術的意味を施されたコーヒー豆。……ラッキーナンバーでもあるわね……。それは、そう……夢の狭間で異界のものになってしまう。でも、そうはならなかった。きっと、あなたはすでに悪夢を変容してきたのよ」


 呉林は緊張した面持ちで私を見つめながら話してくれる。


「七番目の意味には、もっと簡単に言うと、夢の世界と現実の世界に挟まる危機的な意味があるわ。それは異界のものになってしまうこと。でも、古い預言書に書いてある七番目の覚醒者というものがあって、あなたはその七番目の覚醒者よ。あなたが元々持っている力とは、現実……。つまり、この場合は元の世界ね。その世界の現実の太陽の力を得られて、あなたは悪夢の世界から現実の世界へと強引に起きられるの。そして、私たちが普段暮らしている現実の世界というのも不思議な力が在って、私たちが普通に暮らせられるのはその力のお陰。そして、あなたの持つ現実(太陽)の力は夢の世界を変容することが出来るの。簡単にいうと異界のものにならずに太陽神の加護を受けて助かっているというわけ」


 そこまで話すと呉林はニッコリして、


「気楽に考えましょうよ。難しいのは解るわ」


「ああ」


 まとめると、太陽から力を授けられ、とても危険な異界のものになってしまう七番目のコーヒーを飲んだという事。

生れつきで夢から起きやすい。……ただ単に運が良かったのだろうか。


ふと、私は何気なくサイドミラーを見た。


そこには、サイドミラーに映る遥か遠くの複数のフルフェイスのライダースーツが、土煙を撒き散らし、猛スピードでこちらに走って来るのが見えた。まるで暴走族の集団のようだ。手にはそれぞれ斧などの凶器を持っていた。


「霧画さん! 危ない! 武器を手にしたバイクの群れが近付いてくる! 危険だ!」


「え、この車高いのよ!赤羽さんダッシュボードを開けて、中に銃があるわ!」


「銃ですか?」


 私はダッシュボードを開けると、本当に一丁の小型拳銃があった。それは弾が6発の回転式拳銃だった。違法なものを目の当たりにしてしまったが、今はそれどころではない。


 私は緊張した体を叱咤して銃を握る。

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