第63話

「いいえ、夢は危険なものよ」


「ちょっと、姉さん! それからディオも!……困ったわね」


 ディオと霧画の討論は尽きることがないと判断した呉林は慌てて仲裁に入った。


 ディオの考えは余りにも深さを探求するような考え方だ。まるで、言語や論理の梅を泳いでいるみたいだった。


 呉林は今度サイダーを買ってあげると言いながら呉林姉妹は顔を見合わせ、


「話の続きをしましょ。ええと。私たちは眠っていながらどこかの場所で、この白い城の食事を食べていたというわけね」


 呉林は真剣な眼差しをディオに向ける。


「そうじゃ。五感が勘違いをしている訳じゃなく、現実の世界で体験をしているのじゃ。眠ったままでな……」


 霧画はハッとして、


「その仮説だと確かに恐ろしいわ。その通りなら、死んだら終りね。精神が歪み過ぎているから、とてもじゃないけど精神が持たないわ」


「そうじゃろう。だから夢の世界で死んではならん。わしの友人も姿を消した」


「ご友人がいたのね。お悔やみ申し上げます」


 呉林は静かに言った。


「でも、ディオの仮説と私たちの仮説を合せると、やはり南米に何かがあるのは確かね。それも強大な敵もセットで……。そして、死んだりしたら助からないか……。これはまずいわね」


 霧画は項垂れ、考え込んだ。いや、人生で一番の難局に出くわしたと言ったところか。


「そうね、姉さん。私たちはやっぱり後方支援しか出来ないと思うけど、頑張りましょう。私たち姉妹の力が必要な時はきっとあるわ」


 呉林は俯いた姉の肩に手を置いた。それは美人姉妹の美しさを醸し出す。




「それと、ディオ。私も頑張って少し勉強したんだけど、ウロボロスという名の蛇がこの世界にいるはずなの。その蛇の話をしましょう。お姉さんも力を貸して」


 呉林が最近の知識を出す。


「ウロボロスという蛇?」


 ディオは流石に首を傾げる。……それもそうだと私は思う。


「蛇はグノーシス主義では、プネウマ的(霊的)な象徴なのだそうだ。或いは原初の混沌でもある」

 ディオの淡々とした言葉に、私は参った。首を傾げたのは知識を持っているのに意外だったからか……。いや、ウロボロスの蛇自体は知らないだけだ。


「ええ……あ、あれ……?」


 今度は少し勉強不足の呉林が参ったようだ。


「そうね。恐らく今のウロボロスの蛇は神聖なプネウマ的なものではなく、原初の混沌だと思うわ。シャーマンがそうしたとも言えるのよね。ウロボロスには意志があるのよ。シャーマンが何らかをして……その意志を悪い方へと変えたのね。結論を早めると、私たちはその悪い意志を持った夢と現実を司る怪物……いえ、神のウロボロスの蛇を、何とか目覚めさせないようにしないといけないのよ。その蛇は今は原初の混沌だから、それを完全に目覚めさせると強力な夢の力で、この世界の現実を破壊する意志を持っている……と考えれるわ」


 背筋をピンとしていられるのは、やはり霧画のすごいところだろう。


「そうか。それは厄介じゃな……ウロボロスの蛇か。夢と現実を司る……じゃがどうやって完全に目覚めたら眠らすのじゃ」


「それはシャーマンたちの力で……。後は赤羽さんの力なら……」


 霧画は少し考える。最後の言葉は尻つぼみとなった。


「とにかく、何とかしないと」


 呉林が呟く。


「でも、どうやって何とかするのかな」


 私の何気ない発言に、


「それはすぐに解る」


 そう言うと、ディオは階下を指差した。


 階下へと続く階段を降りると、そこには広大な訓練場があった。勿論、戦いに備えられる。


「相手は好戦的な人ね」


 呉林が唸る。


「そうね。どんな人なのかしら。私、夢の世界は多分これが初めてだけど、さっきの食事といい。こんなにリアルで凄いなんて」


 霧画が恐怖を覚えて呟く。


「南米のどこかの部族のシャーマンなのだから、恐らく好戦的な性格の部族なのじゃろう。赤羽くん。気を付けるのじゃぞ。相手は本気だ。ここまでするのだから、本格的に叩き潰しにくるじゃろう」



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