第64話 南米

7月?日


 白い城で二週間。その間、私と角田、渡部は訓練場で奇麗に髭を剃ったディオにみっちりしごかれた。なんと、ディオは西洋剣術を知っているようで、私たちは重い練習用の大剣と盾でさんざぶつかり合った。


 私は剣道を少しかじっているので以外とすんなりと習得出来た。これなら、強引に稽古をさせられた高校時代の塙先生に感謝が出来る。


 毎日が筋肉痛との戦い。食事は安浦が担当してくれ、食料も二週間分あった。呉林は白い城の探険。ディオはお目当てのサイダーがなく、角田と霧画はビールが無いと喚いた。


 この二週間は辛いがとても楽しかった。


 白い城はその巨体を大地にそっと位置を占めた。私は玄関から南米の大地に足を置く。


「ここが、南米の大地」


 それは、夜の大地だった。鬱然とした針葉樹の森だった……。南米には針葉樹なんて無い筈。普通、針葉樹は寒い所にあるのだが、熱帯雨林気候のはずだが、非常に寒かった。ボウボウだった草は枯れ始め、人の気配が全く無い。


「ここが、南米。寒いわね」


 呉林がさずがに不安がり、寒さで肩を摩る。


 角田と渡部は各々武器を持ち、玄関から足を揃えて、草を踏みしめる。


「あ、またあの赤い月ですね」


 渡部が空に浮かぶ赤い月を険しい目で指差した。


 空には禍々しい赤い月が浮かんでいる。


「本当だ」


 私は渡部の肩に手を置いた。


「人がいそうよ」


 呉林が遠いところを指差す。けれど、何も見えず。あるのは森だ。また不思議な直観なのだろう。


「さあ、行きましょう」


 呉林はそう言うとみんなを連れ、夜の大地を歩きだした。


 何も聞こえない。虫の羽音も獣の音も、川もなく木々も静まり返っている。光点は赤い月と星空のみ。


「ご主人様……」


 安浦が不安がって、私の隣へとやって来る。私は、


「呉林が感じ取った人を探そう」


 と、安浦の手を握ってやる。


「あ、赤羽さん。人たちみたい。結構沢山いるわ。敵じゃないわよね。姉さん?」


「ええと。解らないわ。だから、気を付けていきましょう」


「言葉は通じるかな?」


 私が何気なく言った。……誰も答えない。


 それにしても寒い。私は寒さと暑さは大抵凌げるが……私は冬でも暖房を点けずに部屋の中を厚着で過ごす。けれど、この寒さはきつい。本当にここは南米なのだろうか。


 終始無言で黙々と3時間掛けてなんとか森が開けた。勿論、人工的にだ。どうやら、点々とした集落が集合しているようで、何かの部族のような地味で原始的な格好をしている人たちが、ざっと二百人余りいる。

 集落の広さは普通の学校のグラウンドよりも4倍くらいか。


 私たちに気が付いた6人いる門番のように突っ立っている一人が歩いてきた。


 そのいでたちは、寒いのに上半身は裸、下は動物の毛皮を継ぎ合わせたズボンを穿いている。女性は上半身にも動物の毛皮を巻いているようだ。


 何故か、その体格はムキムキなのだがとても貧相に思える。


「あなたが、夢の旅人ですね」


 部族の男が言う。日本語だ。


「ええ。そうよ。あなたは?ここは本当に南米なの?」


 呉林が警戒しながら前へ出た。


「私はジュドル。この村の二グレド族の蒼穹の戦士。そして、ここは確かに南米です」


「蒼穹って、空のことよね。でも、こんなに寒いのに南米だなんて」


 そのジュドルという青年は近くで見ると陰鬱な顔をしている。


「……この村はもう何年も朝が来ません。そのせいで、猛獣がよく村を襲い、寒さのせいで果実や木の実の食べ物はなかなか採ることが出来なくなりました」


「そんな……酷い……話ね……。私たちにこの原因は何だか知っていたら教えてください。私たちが何とか出来るかも知れません。きっと、ここにいる赤羽さんが何とかしてくれますから」


 呉林は私を指差した。私はこっくりと頷いた。

 今も生きていたいという気持ちだけで、ここまで来たんだ。


「南の村の巫女。カルダのせいです」


 ジュドルは苦悶の表情を見せる。


「止めてほしいとか話に行かないの」


「カルダの村はとても強い戦士に守られて、近づいたものは二度と戻ってきません。カルダの村は毎日、周辺から幾度も生贄を探しているんです。この村からもかなり……生贄が出てます。もう村の人たちは安眠できません」


 呉林は血の気の引いた顔をしている。


「何故、生贄が必要なのかしら?」


「カルダの木で夢の反乱を起すため……」


「カルダの木?」


「その木の大きさは? どれくらいなんですか? ここからじゃ見えませんが」


 渡部の問いに青年は首を伸ばし、


「大昔はこの南米と同じくらいだったようです。それより前の大昔は世界と同じだったと言われています。でも、今ではカルダの集落と同じくらいの大きさです」


 男は、年は20代くらい。何故かはきはきと日本語を話す。ここが夢の世界だからだろうか。私はここに来て、敵ではなくまともに話せる人物に出会い。緊張する心に少々、嬉しい灯火が付いた。でも、これから私たちはどうなるのだろうか。

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