第68話
「こ……ここまで……連れてきた甲斐があったものよ……。お前はわしの長い時の中。探し求めていた目覚められるものだ。200年以上も探したぞ。この南米にいると思ったのだが……それは間違いじゃった……。ウロボロスが完全に目覚める時が来た。ルゥーダーよ。この者を必ず殺すのだ。そうすれば長い年月のわしらの願いがかなうぞ。未来永劫の夢の世界が」
まるで、呪いの言葉を話しているかのような声。この上ない歓喜の表情のカルダは、隣の王者のような青年に嬉し泣きをして話した。
それを聞いて私は流石に真っ青になる。
体が恐怖で動かない。後ろにいる呉林姉妹、ディオと無事な村の人々は硬直していた。
「お前をやっと……見つけたぞ。明日に儀式を始める。一番、残酷な儀式でゆるゆると殺す。もう逃がさないぞ……」
カルダは禍々しく泣いていた。
こんな恐ろしい奴らが今まで私たちを苦しめてきたのか! と私の心の天秤に怒りと恐怖が芽生えた。どちらが大きいかというと、怒りだった。
私はここへ南米に来て、この二人を説得するとか生易しいことは、到底不可能だということを悟った。ディオたちの言うような戦の準備が必要な訳だ。食うか食われるかの命のやり取りをしなければならなかったのだ。
ここへ来て、戦がどうしても不可避なのが解った。
「待ってな! 明日、こっちからぶっ殺してやるよ!」
私は体中の脈打つ血液で勇気を振るい叫んだ。仕方ない。生きていかないといけないんだ。
私はボロアパートのことを必死に考えた。
「赤羽くん! 待て! 三日後にするのじゃ!」
奥の森からディオが硬直から理性と精神力だけで、その呪縛を破り、駆け出して来た。私の隣に来ると、
「カルダさんよ。こちらもまだ準備ができていない。そちらもだろう。ここは矛を収めて三日の準備期間が必要じゃろう。それで、双方万全なかたちとなる。本当の戦いができるのじゃ」
ディオはそのギラギラした目でカルダを挑発した。
「三日も必要ない。明日だ」
カルダの隣の青年は強い口調と平静さで応じた。
「う……」
ディオが唸る。しかし、動きだした歯車は止まらない。
「では、明日」
私が手を振ると、カルダと青年が消えていた。
「い、今のは?」
「駄目じゃ。こちらの負けじゃ」
ディオの言葉に私の心に傷が付く。
「何故。俺には力がある。訳ないさ。俺はこんなところでもさっさと生還して、生きていたいんだ!」
「さっき言ってたじゃろう。カルダの魔術で眠らすと……。赤羽くんのさっきの力は、どうやら夢の世界で、起きていないと出来ないのじゃろう」
「ええ、そうよ」
奥の森で女子供と一緒にいた霧画が駆けだして来て話に割って入った。もう安心だと思い呉林もやってくる。
「赤羽さんの力は、この夢の世界で覚醒することにあるの」
「ならば、尚更負ける。敵はこの村の四倍の規模。そして、赤羽くんは何かの魔術で眠ると、力を失う。それに敵の事を全く知らない。勝機とは幾らか知恵比べでも力比べでも対等でなければ生まれないんじゃ」
「大丈夫さ。何とか寝ないようにするよ。眠気覚ましに剣で足を刺してもいい」
ディオは仕方ないといった顔をして、呉林姉妹の手を取り、大急ぎで長老のテントへと向かう。私も付いて来いと言われたので走る。
「……僕たちは生き残った村の人達を見てきます」
渡部が呟いた。
角田と渡部は村の人たちの被害を確認する役に回った。
「何か書くものを!」
ディオはテントに私たちと雪崩れ込むと叫んだ。私は手近かの木の棒を渡して、地面に書いてくれと言った。
ディオに大声で呼ばれた長老とバリエも走って来る。
「ここが、わしらのいるところじゃ!」
地面に木の棒で丸を書く。
「そして、ここがやつらのいる所じゃ!」
丸の離れた先に丸を書いた。
「この森のわしらとやつらの正面には、何があるのじゃ。川か谷か……!」
「とても大きな広場が有ります」
バリエが口を開く。
「それじゃ。その広場には丘はあるか」
「はい。この森を少し抜けると、幾つかの起伏があります」
「起伏と広場か……。やはり、正面きっての戦いしかないか」
ディオは考え込んだ。
「穴掘りが得意な者はおるかな」
「はい。何十人かいます」
ディオとバリエの会話の中、私は兵力が足りるのか足りないのか解らなかった。向こうは村は大きいが、黒い霧を何千体もだせるのなら村の大きさは関係ないはず。逆に、黒い霧が数百体しかだせないのなら……。それと、そこの村の人たちは戦いに参加するのだろうか。
「勿論しないと思うわ」
呉林が私に話しかけた。
「え?」
「要するに、黒い霧だけの数を知りたいのでしょう? カルダの村の人は参加しないわ」
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