第39話

「ああ……御免」


 夕食はまた豪勢だった。安浦は夕食を待ってくれたようで、一緒に食べることになった。何を隠そう私は霧画に無理を言って、長椅子をもう一つ買って来たのだ。


 これで、安浦の件は何とかなった。


「ご主人様。南米で何をするんですか」


 安浦は大き目のハンバーグのフォーク片手に尋ねた。


「それが、霧画や呉林も解らないようなんだ。俺もどうなるのか解らない。でも、呉林姉妹の言う通りに南米に行かないといけないんだ。この世界を何とかするために」


 安浦は目を輝かせ、


「さっすがご主人様! あたし、ご主人様と結婚する! 世界を救うヒーローと結婚! 結婚!」


「は?」


 私はどうしていいかうろたえる。安浦は大喜びで、結婚を力いっぱい言い続けている。けれど、私は呉林が今でも好きだ。


 ……食事は楽しかった。安浦は終始ご機嫌になり、私は料理の素晴らしさを噛み締める。


「明日はどうするんですか?」


 玄関越しに安浦は聞いてきた。


「明日は休みだ」


 安浦は大はしゃぎで喜び、


「じゃあ。……デート……お願い」


 最後は尻つぼみになる。


「解ったよ。おやすみ安浦」


 私は食事のお礼ということで承諾した。


 私はルーダーの体に入っていた。


「何人死んだ」


 カルダがまるで呪いを呟くように言う。


「星の数ほど……」


 ルーダーが答える。


「生き残っている者がいるのなら死を……金を払え……おぼろげなのを纏い死を……金を払え……」


 ルーダーはそんなカルダを優しい眼差しで見ていた。




 翌日。安浦の元気な声で目を覚ました。


「おはようございます! ご主人様!」


「解った。今行くよ」


 私は携帯の時計を見た。朝の9時だった。今日は祝日。仕事も休めて生まれて初めてのデート。軽く顔を洗って、着替えはラクダ色のワイシャツと青のジーンズ。朝食は食べなかった。


 ウキウキして外に出ると……。安浦は緑色のゴチャリとしているフリルが一杯付いたブラウスと、スカイブルーのフレアスカートとの格好だった。髪はロングヘアーで、小柄でポッチャリしている容姿は可愛らしい人形のようだ。


 私は少し長めの髪をぽりぽりと掻いてから、


「どこに行こうか?」


「遠くてお金かかるけど渋谷に行きましょう」

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